こうした経験の積み重ねが結果的にチームの優勝につながっていく。だとしたら、「優勝した経験」というのは、そこに至る試合の経験と練習の経験、そして選手はもちろん、監督やコーチの試行錯誤を総合したものと言える。
2024年のベイスターズ下剋上
野球は「勝ったチームが強い」
野球は「強い」と言われているチームが勝つとは限らない。たとえば、2024年のセ・リーグのクライマックスシリーズを見たらわかるだろう。
シーズン優勝を果たした読売ジャイアンツに、3位だった横浜DeNAベイスターズが勝利し、日本シリーズ進出を決めた(編集部注/執筆当時。のちに日本シリーズで福岡ソフトバンクホークスに勝って日本一になった)。
また、勝ったことがあるチームが強いとも言えない。優勝経験がある選手たちが力を出せれば、また優勝して強いチームになれるが、連覇は難しい。2023年日本一の阪神タイガースが2024年はセ・リーグ2位、クライマックスシリーズでも横浜DeNAベイスターズに敗れてしまった。

工藤公康 著
要するに、野球は勝ったチームが強いのだ。強いチームが勝つわけではない。逆に言うと、シーズン前に「今年はよくてAクラスかな」と思われていた戦力不足のチームでも、シーズン優勝する可能性が十分にある。
もちろん、監督は優勝を目指して、いい先発投手、いい中継ぎ、いい抑え、いいクリーンナップ、足の速い選手と、優勝が狙える戦力をそろえたい。そろっていなければ補強して、あるいは育成して補おうとする。ただし、十分な戦力がそろっていても、実際の試合で監督の計算通りに選手たちが活躍できるかどうかは、1年やってみないとわからない。
結果としてシーズン優勝できなかったら、また戦力をプラスアルファしなければいけない。たとえば「秋からの練習で各選手の能力をもう少し伸ばしたら、来年は勝てるチームになるはずだ」と、監督は強化策を考えて実行する。
当たり前だが、負けたら負けたで課題があり、勝ったら勝ったで課題がある。その課題をどうクリアして1年間戦えるチームにするか。秋と春のキャンプの成果が出て、そのシーズンに優勝したときに、ようやく監督は「このチームは強くなった」と実感できるのだ。