たとえば、走者二塁で打順が回ってきたとき。逆方向に打って、最低でもセカンドゴロで走者を進めようとするのか。次の打者に回そうと、粘ってフォアボールを取ろうとするのか。それとも逆方向もフォアボールも考えず、タイムリーヒットを狙うのか。
もちろん、クリーンナップか下位打線か、あるいは1・2番か6・7番かによって、試合の中で果たすべき役割は変わってくる。そういう自分の役割のほか、自分の打力や相手の守備能力もわかったうえで、冷静に自分の今やるべきことに集中して、自分が意図した通りの結果を出す。
常勝時代の西武ライオンズには、そんな野球をよく知っている選手がそろっていた。そういうチームが勝ちを積み重ねていくと、周りから「勝ち方を知っている」と言われるようになるのだ。
経験の積み重ねが結果的に
チームの優勝につながる
野球中継では、選手やチームに対して「優勝した経験があるのが強みですね」といった言い方も出てくる。確かに勝った経験は大事だと思うが、より詳しく言うと、勝てなかった選手たちが練習して勝てるようになったという経験が試合の中で役に立つのだ。
たとえば、ピンチの場面でエラーが出て負けたから練習して同じエラーをしないようにする。チャンスの場面で逆方向に打てなくて負けたから練習して逆方向に打てるようにする。こういう練習は1回で終わりではない。現役のプロ野球選手である限り、守備でもバッティングでもミスをするのだから、2回、3回、4回と、そのたびにキャンプはもちろん、シーズン中でも練習を繰り返す。
守備にしてもバッティングにしても、少しでもミスを減らしていく。そういう練習の繰り返しの中で、少しずつ守備力、打力が上がっていく。
そして何年か試合に出続けているうちに、対戦相手のことや自分の役割などもわかってくる。たとえば、走者二塁のときに相手投手が自分に投げてくる球も予測できるようになる。すると、「ここで逆方向に打つのが自分の役割だ」とわかっている選手の場合、狙い球を絞って簡単に逆方向に打てるようになる。
選手たちは試合中に、よい経験もするし悪い経験もする。その経験を通して、自分が活躍するためにはどんな技術が必要かをしっかり考えて、繰り返し練習して、実戦で使えるようにする。これも経験だ。