最強AIミュトス生んだアンソロピック「評価額60兆円」でも割安!?法人市場でオープンAI抜き首位、IPOの時価総額“倍以上”に?Photo:SOPA Images/gettyimages

生成AI界に激震が走っている。米AIスタートアップのアンソロピックが開発した新型モデル「ミュトス」がさまざまなソフトウエアの脆弱性を短時間で発見し、最近ではセキュリティーで鉄壁を誇るアップルのOS(オペレーションシステム)「macOS」の欠陥も暴いたというのだ。一連の「ミュトスショック」は国家の安全保障すら揺るがす事態になっている。さらに、法人向けAI市場のシェアでアンソロピックは宿敵オープンAIを抜いてトップに立った。アンソロピックの市場評価額は60兆円に上るが、それすら「割安」とされる。BtoB市場の主導権を握ったことで、上場時の時価総額はさらに大きく膨らむ可能性もある。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

衝撃の高性能AI「ミュトス」
アップル「macOS」の脆弱性も暴く

 生成型人工知能(AI)スタートアップの米アンソロピックが開発した、「一般公開するにはリスクが高すぎる」とされる新型AIモデルの「ミュトス(Mythos)」が、世界に大きな衝撃を与えている。

 その凄さは、百戦錬磨のハッカーたちでさえ発見することが困難なソフトウエアの脆弱性を、自律的かつ能動的に数日で見つけ出してしまう点にある。

 例えば、アップル製PCのオペレーティングシステム「macOS」は、同社が「5年の歳月をかけて築き上げたエンジニアリングの集大成」と自負する業界最高水準のセキュリティーと堅牢性から、世界中のプロフェッショナルたちに広く信頼されている。

 ところが、米セキュリティー研究企業のカリフがミュトスを使い、macOSご自慢のメモリ防御機構である「メモリ整合性強制」の欠陥を突破。本来得られないはずの権限を不正に取得し、操作可能範囲を広げる「権限昇格エクスプロイト」をわずか5日で構築したとされる。アップルは、この衝撃的な事件を伝えた米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対して、「極めて深刻に受け止めている」とコメント。現在、対応を検討中だという。

 さらに、グーグルのウェブブラウザである「クローム」から派生した「ファイアフォックス」に関して、開発元の「モジラ」がミュトスを利用してコード監査を実施し、最新バージョンの「ファイアフォックス 150」のプレリリース版で271件もの脆弱性を特定したと伝えられた。

 一連の報道は、AIが自律的な「思考」と「攻撃能力」をすでに獲得し、社会や経済に重大な結果をもたらす可能性を示唆するものだ。

 事態を重く見た米財務省のベッセント財務長官と米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長(当時)は4月7日に、ウォール街のトップを緊急会議に招集。「修正プログラムが公開される前に、それを悪用するサイバー攻撃であるゼロデイアタックが実行される恐れがある。手遅れになる前に、金融機関は今すぐミュトスを用いて、自行のシステムのテストを始めるべきだ」と伝えた。

 日本も、「ミュトスショック」に襲われた。5月12日には、日本政府がミュトスを防衛目的で使用できるよう、アンソロピックにアクセス権の提供を求めていることが判明。三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクがミュトスへのアクセス権を得る見通しだと伝えられた。

 アンソロピックは、つい最近までAIブームの主役であった「ChatGPT」、その開発企業オープンAIを押しのける形で、ブームの中心に躍り出た。その成功の秘訣はどこにあるのか。

法人シェアでオープンAIを逆転!
アモデイCEOの深謀遠慮が結実

 アンソロピックは、同社の最高経営責任者(CEO)のダリオ・アモデイ氏など、競合のオープンAIから独立したメンバーらが2021年に創業。オープンAIが22年暮れに巻き起こした世界的なAIブームの波に乗り、高度なプログラミング能力を備えた事務作業の自動化ツールを次々とリリース。主に企業顧客から強い支持を受けている。

 その躍進の原動力となったのが、人気AIモデルの「クロード」だ。一度に読み込める情報量が非常に大きく、複雑な条件が絡み合う問題に対して、段階的に思考を整理し、精度の高い回答を導き出せる点が、法人カスタマーに高く評価されている。

 法人向け資金管理サービスの米ランプ(Ramp)がまとめたところによると、4月のビジネス向けAIモデル市場において、アンソロピックのシェアが34.4%に達し、同32.3%のオープンAIをついに逆転した。

 23年1月に始まる両社のBtoBシェアの推移を見ると、25年1月ころまではオープンAI(エメラルド色線)が圧倒的にリードしていたことが読み取れる。

 ところが25年に入ると、オープンAIのシェアが右肩上がりに上昇した後に横ばい傾向を示す中、アンソロピック(黄土色線)のシェアは年中盤から急激に増加を始めている。そして26年4月に、オープンAIのシェアが低下を始めると、ついに逆転を果たしたわけだ。

 なぜ、このような展開になったのだろうか。まず、アンソロピックのアモデイCEOが、会社設立当初から法人顧客開拓にフォーカスし、ビジネス向けの性能改良に注力していたことが挙げられる。

 クロードは単なるチャットボットではなく、企業の日常業務を自律的にこなすプラグインであるスキル・コネクタが多数提供されている。具体的には、契約書レビューなどの法務、キャンペーン提案の起草などの営業、月次決算やキャッシュフローの予測などの経理・財務をはじめ、各部署の専門業務をきめ細かくサポートする。

 さらに、既存の他社SaaS(サービスとしてのソフトウエア)との連携に関して非常に優れているところも、企業IT管理者の心をつかんでいる大きな理由だ。

 同社は、早ければ10月の新規株式公開(IPO)を予定しているが、長らくオープンAIの後塵を拝してきたその評価額は3800億ドル(約60.4兆円)とオープンAIの半分に迫っており、「なお割安だ」と多くの投資家に評価されている。

アンソロピックはシェアだけでなく市場評価額でもオープンAIを逆転する可能性がある。新規上場(IPO)を控える中、その額はどこまで膨らむのか?