「『なぜ、そう思うの?』は、絶対にNGです」
「なぜなぜ分析」をはじめに「なぜ?」という問いは“論理的に考える”ための「良い質問」だと考えられている。しかし実は「なぜ?」「どうして?」は、致命的な「解釈のズレ」を生み、噛み合わない会話=「空中戦」を作り出してしまう元凶、「最悪の質問」なのだ。
「事実と解釈の違い。これに気づけていない人は、まだ確実に“曇りガラス”の中にいます」――。話題の新刊『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』では、世界・国内の各地で実践・観察を積み重ねてきた著者による「賢い質問の方法」=事実質問術を紹介している。本書に掲載された衝撃の新事実の中から、今回は「ありがちなNG質問」について紹介する。(構成/ダイヤモンド社・榛村光哲)

「何か悩んでいることはないですか?」と聞く人は頭が悪い。“頭が良い人”はどう聞いている?Photo: Adobe Stock

「なぜ?」は最悪の質問

 質問には、よい質問とよくない質問があります。

 よくない質問の代表が「なぜ?」「どうして?」と聞く質問です。

 では、それがよくないのはどうしてでしょうか。
 まず第一に、相手の「思い込み」を引き出してしまい、それがコミュニケーションのねじれにつながるからです。

 しかし、安易な思い込みを導くという意味で、危険なのは、「なぜ」だけではありません。この他にも、「よくない質問」はいくつか存在します。そのうちの1つが、次の系統の質問です。

「問題はなんですか?」

 先に結論を言ってしまうと、このような「問題を直接尋ねる」質問は、「なぜ質問」や「どう質問」と同様に、相手の「思い込み」を引き出すよくない質問です。今回は、この質問のどこがよくないのか、考えていきましょう。

「何か、悩んでいることはないですか?」はNG質問

次の会話例を見てみましょう。これは、実際にあった体験談をもとに構成した対話例で、部長と新入社員の1on1の場面です。

★Side1
部長:何か、悩んでいることはないですか?
新入社員:そうですね……そういえば、最近ちょっと事務ミスが増えているような気がします。
部長:そうですか。では、対策を練りましょう。

 皆さんは、この会話に何か問題があると感じるでしょうか。「問題はなさそう」と感じる人は、多いかもしれません。しかし、この会話には問題点があります。

 次の会話は、途中から「事実質問」に切り替えた場合の展開です。さっそく見てみましょう。

★Side2
部長:何か、悩んでいることはないですか?
新入社員:そうですね……そういえば、最近ちょっと事務ミスが増えているような気がします。
部長:そうですか。では、直近で事務ミスをしたのは、いつですか?
新入社員:昨日です。
部長:そうですか。では、その前にミスをしたのはいつか、覚えていますか?
新入社員:確か、2週間くらい前に一度あったと思います。
部長:では、その前は?
新入社員:えーと…思い出せないです。もしかしたら、意外と事務ミスはしていないのかもしれません。

 それぞれのパターンで、全く違う結論になったことにお気づきでしょうか。

相手への「忖度」が余計な問題を生む

 実は、ここで発生しているのが「忖度」です。

 ここで、「何か、悩みはないですか?」という質問について考えてみましょう。新入社員側の気持ちに立って考えてみてください。「部長がわざわざ新入社員のために1on1を開いてくれた状況」です。先ほどのように聞かれたら、どう反応するでしょうか。

 おそらく、「偉い人が、自分のために時間を使って悩みを聞いてくれようとしている」と察して、「何か悩みを言わなきゃ」という気持ちになるのではないかと思います(もしかすると、「そもそも本当の悩みなんて、言い出せない」という人もいるかもしれませんね)。

 つまりこの質問は、実質的に、「問題がどこかにあるんじゃないですか?」と聞いているのと変わらないのです。

「忖度した会話」は、信頼関係を生み出さない

 聞く側は、「相手の問題を知って役に立ちたい」という思いでこう聞いたのですが、聞かれた側はその気遣いに応えないのもなんだか悪いと思い、それらしいことを答えようとしたのです。つまり部長は結果として、新入社員に「気を遣われてしまった」のです。コミュニケーションのねじれがここでも生じています。新入社員は、ある意味忖度して、事務ミスの話を持ち出したのでしょう。それに対して部長が「悩みを聞き出せた!」と、すぐに受け止めてしまったのです。

 こういうやりとりを繰り返しても、信頼関係が深まったり、課題が解決するのは難しいことは、想像できると思います。二人の間には当然、モヤがかかります。

 こういった場合には「いつ」「どこ」「だれ」などの、5W1H(ただしWhyとHowは除く)のうち、相手が答えやすいであろう「事実質問」から入っていくとよいでしょう。ちなみにSide2で使っているのが事実質問です。まどろっこしいように思えるかもしれませんが、よい人間関係を築くためにも、このような事実に基づく対話が重要なのです。

(本記事は『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』の一部を抜粋・調整・加筆した原稿です)