2017年の発売以降、今でも多くの人に読まれ続けている『ありがとうの魔法』。本書は、小林正観さんの40年間に及ぶ研究のなかで、いちばん伝えたかったことをまとめた「ベスト・メッセージ集」だ。あらゆる悩みを解決する「ありがとう」の秘訣が1冊にまとめられていて、読者からの大きな反響を呼んでいる。この連載では、本書のエッセンスの一部をお伝えしていく。

「ニコッと笑って、『ありがとう』を言う」と、目の前のものや人に、奇跡が起こるらしい
マザー・テレサは、病人を介護する療養施設を運営していました。
彼女が運営していた病院には、当時、電気の照明がなかったそうです。ボランティアに携わった人の話では、日の出とともに仕事がはじまり、日没とともに一段落するということでした。
あるとき、日本の福祉系大学の教授が、学生を20人ほど連れて、マザー・テレサの病院で介護ボランティアを体験させたそうです。教授自身は介護にはかかわらず、引率する立場でした。
帰国後に、教授が学生のレポートを整理していると、次のような内容のレポートがあったそうです。ある少年の介護を担当した女子学生が書いたものです。
「自分が担当した少年は、何をしてあげても、何を話しかけても、まったく反応がなかった。私は彼から『拒否』されているように感じて、無力感を覚えながら仕事をしていた。ところがあるとき、少年ははじめて『何か食べたい』と自分の意志を示した。私が『おも湯』をスプーンですくい、彼の口に運ぶと、彼はニコッと笑い、『ありがとう』と言った。その瞬間、とても不思議なことが起きた。照明のない暗い病室が急に明るくなったように感じた。あの明るさは、気のせいではないと思う」
このレポートを読んだ教授は、「彼女の気持ちが明るくなったことで、まわりが明るく見えたのだろう」と思い、それほど気に留めなかったそうです。
翌年、教授は別の学生を連れて、マザー・テレサの病院を訪れました。そして今度は、自分も介護を担当することになったそうです。
ある日の夕方、1日の介護が終わるころに、ひとりの老人が教授に向かって手招きしたそうです。
老人は「何か食べたい」と言いました。教授が「おも湯」をつくって老人の口に運ぶと、老人は、ニコッと笑って、「ありがとう」と言ったそうです(おそらく、英語で「Thank you」と言ったのでしょう)。
するとその瞬間、照明のない部屋に光が広がり、部屋の隅々まで見渡せるように感じたというのです。
教授は、女子学生のレポート内容が「気のせいではなかった」のではないかと感じたそうです。
相手がニコッと笑ったからなのか、「ありがとう」を言ったからなのか、どちらなのかはわかりません。
しかし、どうも、「ニコッと笑って、『ありがとう』を言う」と、光が発せられて、周囲が明るくなることがあるらしいのです。
私たちは、「明るい人」「暗い人」という表現を何気なく使ってきましたが、もしかすると、「嬉しい」「楽しい」「幸せ」「愛してる」「大好き」「ありがとう」という言葉を発した瞬間に、「光っている」のかもしれません。
そして、その光は周囲を物質的に明るくするだけでなく、目の前のものや、人、組織、構造物まで変質させてしまう力があるのかもしれません。
私の車は、メーカーによると、燃費が「リッター7km程度(1リットルのガソリンで約7km走れる)」だそうです。ところが実際は、「約10km」を維持しています。
どうしてこれほど燃費がいいのか不思議に思っていたのですが、今回の話で思い当たることがありました。
それは私が、車に乗るたびに「元気に走ってくれてありがとう」「軽快に走ってくれてありがとう」と声をかけていたことです。もしかすると、「ありがとう」が持つ言葉の光が、ガソリンを変質させていたのかもしれません。
「ニコッと笑って、『ありがとう』を言う」。こんな簡単な力なら、いくらでも使えそうだと思いませんか?