もちろん、子どもが病気になったときなどには、彼女も突発的に仕事を休まざるを得ない。正社員よりも就労時間は圧倒的に少ない。

 にもかかわらず、上記のような仕事をこなすばかりか、取引先や他部署でも、「彼女がいないと話が進まない」という声をよく聞き、クレーマーで有名な他部署のお偉いさんからの電話も、彼女が対応すると丸く収まるのは、有名であった。

 その上司は、これまで彼女を派遣のままでいさせたことを後悔しているという。彼女のこなしていた業務は、専門知識と経験のある正社員3人分の質量があった。それを時給で雇う「派遣」としていたのでは、彼女だって長く勤務するインセンティブはなくなってしまうだろう。

真の“人財”を見極められないと
重大な人的資本の喪失につながる

  これに似たような話は、たくさんある。事実、私も何度も聞いてきた。

 組織論の観点から言えば、これは重大な人的資本の喪失であり、人事の失敗である。

 本当に能力と経験のある者、組織に貢献できている者が、相応の待遇を得られずに辞めていく。そんな状況をつくり出しているのならば、それは組織に人事制度上の欠陥があると考えざるを得ない。

 上司が後悔して終わる問題ではないのだ。

 その「派遣さん」の名誉のために書いておくが、彼女はそれまで待遇について不平を漏らしたことは一度もなかったという。彼女は、仕事の進め方や内容について、時に挑戦的な議論をすることもあったが、自分自身への処遇などについて文句を言うことは一切なかった。

 逆に言えば、周りの「正社員たち」はそういった彼女の態度に甘え、かつ、彼女の仕事量と質の高さについて査定することを怠ってきたのである。