何気ないひと言が、職場の空気を左右する。働く人のやる気を静かに削ぐ「口ぐせ」や「社内用語」が、知らず知らずのうちに組織の文化をかたちづくっているもの。では、どんな言葉が現場に違和感を生み出し、職場の雰囲気を悪化させてしまうのでしょうか?
『組織の体質を現場から変える100の方法』を刊行した沢渡あまねさんと、『冒険する組織のつくりかた』著者である安斎勇樹さんに、組織にはびこる“危ない口ぐせ”について語ってもらいました(ダイヤモンド社書籍編集局)。

「駆逐」「制圧」…軍事ワードが飛び交う会社のリスク
Q. 働く人がモヤモヤを感じやすい「組織の口ぐせ」には、どんなものがあるのでしょうか?
安斎勇樹(以下、安斎) 組織の世界観やカルチャーって、すごく口ぐせや言葉遣いに表れるなと思います。たとえば、リクルートの人に会うと「あ、この人、リクルート出身だな…」ってすぐわかるような独特のワーディングがある。

沢渡あまね(以下、沢渡) ありますね(笑)。わかります。
安斎 そうした言葉っていい意味でカルチャーになっているし、悪気なく使われているわけですが、外部から見ると違和感があるというケースもけっこうありますよね。
会議とかで「競合を駆逐する」「マーケットを制圧する」「顧客を刈り取る」みたいな軍事的な世界観がにじむ言葉をあたりまえのように使っている会社を見かけると、そこに危うさを感じます。
沢渡 まったく同感です。地方企業などでは、いまだに「うちの子」「あの子」といった表現をする方をよく見かけます。
若手社員や女性社員に対して、悪気なくファミリー的な空気感で使ってるんでしょうけど、外からは「子ども扱い」しているように見えてしまう。実際、新卒社員や若手女性から「言葉遣いにモヤモヤする」という声も聞きますが、悪気はないからこそ厄介なんです。
安斎 とくに最近は、越境や社外交流が当たり前の時代。そういう“強い言葉”を無自覚に使ってしまうと、社外から見たときにブランディング的なリスクにもなりかねません。
だからこそ、自分たちの言葉遣いを前向きに整えることが大事です。倫理的にどうか? 人を道具的に扱っていないか? 顧客を見下していないか?――そういった視点を持つ必要がありますね。
「問いの癖」がイノベーションを止めている
安斎 私はこれまでファシリテーションや問いのデザインを研究してきたのですが、そうした中でも「創造性を潰す問い」のようなものが組織の口ぐせになっているパターンもめちゃくちゃ多いですね。
とくによくあるのが、なにか新しいアイデアが上がってきたときに投げかけられる「それ、前例はあるの?」と「それ、よそがやってるよね?」という問いです。
沢渡 あ~、あるある!(笑)

安斎 どっちにしても潰されるんですよ。前例がなくても潰されるし、前例があっても「なんだ、他社の真似じゃないか」と言われて潰される(笑)。結局、「やりたくないだけ」なんですよね。
相手の創造性や意見を押し殺すような発言って、職場で意外とふつうに飛び交っているものです。そういう言葉遣いを少し変えていくだけでも、職場の空気はかなり変わっていきますね。
マネジャー自身の無策をさらしている“指示語”
安斎 あとは、マネジメントに対する考え方も、人や組織の「口ぐせ」に現れますよね。
沢渡 そうですね。たとえば「~させる」という表現。「若手にやらせる」「業者にやらせる」など、上下関係を前提とした言葉遣いが無意識に出ると、リスペクトのないマネジメントにつながってしまう。
あと、「至急!」「大至急!」を連呼する管理職も要注意です。急ぎの案件が出るのは仕方ないとしても、それが日常的に頻発しているのだとすれば、それはマネジメントに問題があるということですよね。
私はかつてスタートアップに所属していたのですが、そのときに「この会社は、いつもいつも『大至急』が多すぎます!」と上司に直言して喧嘩になったことがありました(笑)。
安斎 すごい(笑)。「大至急」にならないように優先順位をつけて、仕事を割り振っていくのがマネジャーの基本的な役割ですからね。
沢渡 「生産性を上げろ」も同じように使われがちです。そもそも「生産性とは何か」が定義されていないケースがほとんどだし、実際には「気合いでなんとかしろ」みたいな雑なメッセージとして使われている。
「『生産性を上げろ!』が口癖の上司がいなくなったら、チームの生産性が上がった」なんてシニカルな話もあるくらいです(笑)。
安斎 「生産性を上げろ」という命令を繰り返していること自体が、マネジャーがPDCAをしっかり回せていない証拠でもありますからね。
沢渡 言葉って、やっぱり組織の文化をすごく反映するものですよね。それがその組織らしさになるし、逆に組織の停滞や閉塞感にもつながりかねないと思います。
(本稿は、『組織の体質を現場から変える100の方法』の著者・沢渡あまねさんと、『冒険する組織のつくりかた』の著者・安斎勇樹さんによる対談記事です)