社員の自律や挑戦が封じられている職場では、働く人たちが静かに疲弊し、やがてやる気を失っていくもの。では、現場のモチベーションを奪い、組織の成長を妨げる“禁止ルール”とは具体的にどんなものなのか? また、そうした空気が醸成されてしまう背景には、何があるのでしょうか?
『冒険する組織のつくりかた』著者である安斎勇樹さんと、『組織の体質を現場から変える100の方法』を刊行した沢渡あまねさんに、現代組織にひそむ「禁止の空気」について語ってもらいました。

越境NG、副業NG、発信NG…
広がる「やってはいけない」の空気
Q. 現場の人たちが疲弊し、やる気を失っている会社では、どんなことが「禁止」されがちでしょうか?
安斎勇樹(以下、安斎) AI使用禁止、副業NG、社外発信NG――そういった“組織からはみ出す行動”を極端に抑止する姿勢って、いまでは非常に時代遅れだと感じています。
かつては、軍事的な世界観のなかで「他社と関わるのは裏切り」みたいなノリがありましたよね。たとえば、ビール会社であるA社の人がB社のビールを飲むなんてあり得ない、みたいな(笑)。
沢渡あまね(以下、沢渡) ちょっとした笑い話ですが、自動車業界では「他社製のクルマで来た人は、オフィスから遠い駐車場に案内される」みたいな話も聞いたことがあります(笑)。

安斎 今は越境が当たり前になっている時代。そうした旧来的な境界線を維持すること自体が、組織の成長にとってブレーキになるように思います。
結局、「社員一人ひとりが自分の意思で働けているか」がすごく大事なんですよね。ルールでがんじがらめになって、全部上から決められる状態だと、「自己決定感」がどんどん薄れていく。
沢渡 そうですね。最近よく言われる「働くウェルビーイング」にも、自己決定って深く関係しているんです。「体験」「評価」「自己決定」の3つが鍵になると言われていて、そのなかでも自己決定は最も重要な軸の一つです。
安斎 “自己決定”ができなくなっている場合、それは本人の意識や態度よりも、制度や文化のほうに原因があることが多いですからね。
沢渡 まさに。「やる気がない」と言われる社員の多くは、じつは「やる気を出せない仕組み」に押し込まれているだけなんです。人が辞める理由も、個人の感情ではなく、組織文化やルール設計にこそ潜んでいるのだと思います。
「うちのやり方がいちばん正しい」という万能感が、組織を腐らせていく
安斎 だからこそ、「どうルールを変えるか?」をみんなで考えることが必要なんですよね。ルールは変えられるものだし、変えていける「手触り」こそが、人にとっても組織にとっても希望になるんだと思います。

沢渡 逆に、こうした“禁止ルール”の背景には、「うちのやり方がいちばん正しい」という、組織の万能感が潜んでいるんじゃないかと思っていて。
安斎 おっしゃるとおりですね。業績があまりに好調だったりする会社ほど、やけに内向きになって「よけいな外の風を入れるな」と言い出すようになる。こうなると、人は成長しなくなるし、組織としての学びも止まってしまう。
沢渡 それがやがて、「自分たちの常識が、世の中の非常識になる」という危険にもつながるんですよね。急成長中のスタートアップなどでも、そうした“内向きの禁止”が起きているのを見かけます。
安斎 「みんなで自社のビールだけを飲む」みたいな文化と同じですね(笑)。他社のやり方を知ることすら裏切り行為のように扱われる。
「萎縮の連鎖」がはびこる職場の末路
安斎 他方で、組織がある種の恐怖や不信から、「◯◯をやってはいけない!」を連発するようになると、社員のあいだでも「これは聞かないほうがよさそうだ」「それは話さないでおこう」といった“萎縮の連鎖”がだんだん始まります。
沢渡 これが怖いのは、「禁止の対象」がだんだん拡張していくことですね。最初は「情報漏洩の防止」が目的だったのに、いつの間にか「勉強会に参加するのもNG」「他社との交流もNG」みたいに、制限範囲が広がってしまう。
安斎 そういう空気の中では、もはや自分の考えを話すことすらリスクになる。結果として、「とにかく黙って目の前の仕事をやる」が最も安全な行動になるんです。
沢渡 まさにそこが残念なポイントです。こうなると、優秀な人ほど「この会社で変化を起こすのは難しそうだな……」と感じて、さっさと辞める準備を始めてしまうんですね。
(本稿は、『組織の体質を現場から変える100の方法』の著者・沢渡あまねさんと、『冒険する組織のつくりかた』の著者・安斎勇樹さんによる対談記事です)