『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)は、イーロン・マスクによるツイッター買収前後の激動の様子やマスクの知られざる顔に迫る衝撃的なノンフィクション小説。「面白いし、読みやすいので、一気に読んでしまった」「生々しくて面白い」「想像以上にエグい」など絶賛の感想が相次いでいる。著者は大ヒット映画『ソーシャル・ネットワーク』原作者、ベン・メズリック。本書の発売を記念して、今回は特別に本文から一部抜粋・再編集してお届けする。
2021年1月6日、アメリカ連邦議会議事堂が暴徒に襲撃される事件が発生。バイデンが勝利した大統領選の結果を不正とするトランプ支持者たちが議事堂に突入し、議会の手続きを妨害。死者や多数の負傷者を出す暴動となり、アメリカの民主主義を揺るがす重大な事件となった。その余波の中、ツイッターはかねてより議論の的となっていたドナルド・トランプ大統領のアカウントを永久凍結するという、前例のない判断を下す。凍結を主導した中心人物の一人、ツイッター社のトラスト&セーフティ責任者のヨエル・ロスの葛藤と決断。その瞬間、ツイッター社内では何が起きていたのか――。

トランプ大統領の「ツイッターアカウント永久凍結」。ツイッターが下した歴史的決断の舞台裏とは?【話題の1冊を紹介】Photo: Koshiro K/Adobe Stock

トランプ大統領アカウントの永久凍結

コロナ誤情報の対応は大変だった。だがそれも、2021年1月6日に米国連邦議会議事堂で起きた大事件を受け、同月8日に行ったドナルド・トランプのツイッターアカウントの永久凍結で巻きおこった乱痴気騒ぎに比べればたいしたことはない。

トラスト&セーフティに対しても、また、ヨエル個人に対しても、このとき以上に注目が集まったことはないと言える。

ヨエルがトランプをどう思っているのかは、彼を知る人には知れわたっていたし、ヨエルが昔投稿したツイートを掘りおこしてきたネット探偵諸氏にもばれていた。

たとえば2017年には「そうなんだよ、ピンクの帽子をかぶった人物が、フェミニズムにとって、ナチスがホワイトハウスにいるより大きな脅威であることはまちがいない」というツイートでトランプを痛烈に批判しているのだ。

それでも、トランプ大統領の排除など簡単にできることではない。トランプ大統領のアカウントは凍結すべきだとの声が2016年以降、増えつづけていたにしても、だ。

実は、トランプのツイートに憤る人があまりに多く、2018年1月5日、大統領がいまだにツイッターを使いつづけていられる理由を、次のように、公式のポリシーアカウントから説明しなければならないところまで追いこまれていたほどなのだ。

---世界的なリーダーをツイッターから排除する、あるいは、論議を呼ぶからとそのツイートを削除するなどすれば、国民が目にし、それについて意見を交換できてしかるべき重要情報を隠すことになります。また、そのようなことをしても、そのリーダーに口を閉じさせることはできず、逆に、その言動に関してなすべき議論がなされなくなる結果となりかねません。---

ところが、2021年1月6日にあのようなことが起き、また、デモが暴動に転ずるなか、トランプ大統領自身が投稿したさまざまなツイートの内容が内容であったことから、ツイッター社も対処せざるをえなくなる。

なにせ、逮捕者840人超、死者・負傷者多数で、数々の調査や訴訟が行われるほどの暴動が、2020年の大統領選挙が不正であるとの見解から発生したのである。

苦渋の判断

ここまでの影響が出るのであれば、トラスト&セーフティとしても抑制せざるをえないし、この見解をもっとも声高に唱えているのはトランプ大統領自身なのだ。

この件については、丸二日もかけて、社内で激しい議論が交わされた。CEOのジャックが休暇でフランス領ポリネシアに行っていたため、大きな発言力を持っていたのはヨエルひとりである。このとき問題になったのは、大統領が6日に投稿した次のツイート2件だ。

---「アメリカ・ファースト」や「米国を再び偉大な国に」という訴えに賛同し、私に投票してくれた偉大なる愛国者7500万人の声は、今後も末永く尊重されるべきだ。彼らに対する不敬や不正な取り扱いは、方法や様式、形式を問わず、あってはならない。
―午前6時46分

もうひとつは、午前7時44分に投稿された。

---問い合わせをたくさんもらっている1月20日の大統領就任式だが、私は出席しない。

この2件とその後の暴動により、ツイッターは大荒れに荒れた。

苦渋の決断

なにがしか対応すべきだとするスラックメッセージや電子メール、ツイートがツイープスの間で飛びかったのをジェシカもよく覚えているという。そして、1月8日には、対応を取らざるをえないとヨエルらもあきらめ、会社の公式ブログでその旨を説明することにした。

---最近、@realDonaldTrumpアカウントから投稿されたツイートと関連する状況―特に、これらがツイッター内外でどのように受けとられ、どのように解釈されているか―を精査した結果、今後も暴力沙汰を誘発するリスクがあると判断し、当該アカウントを永久に凍結することとしました。---

ツイッターを安全な場所とするにはそうするのがいいと信じているから、大火事になりかねない火種を探りだし、しっかりと検討した上ですばやく対処した―そういうことだとジェシカには見えた。 

(本稿は『Breaking Twitter』から本文を一部抜粋、再編集したものです)