YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」で、メンタルの病気について発信し続けている、早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介医師。本記事では、日韓累計40万部を突破したベストセラー『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』(キム・ダスル著、岡崎暢子訳)の邦訳1周年を記念して、益田裕介医師に気分とメンタルの関わりについてインタビューを行った。本記事では、「発達障害のある人々が職場でうまく働くためのコツ」について精神科医目線から解説する。(取材・文 ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)

発達障害は能力の“でこぼこ”
――社会人1年目、会社に入ってから「なんか自分、周りと違うかもしれない」と感じる人がいます。発達障害を疑うサインには、どんなものがありますか?
益田裕介先生(以下、益田) たとえば、「大事な場面で急に黙っちゃう」とか、「忘れ物がやたら多い」とかね。社会人としてはちょっと目立っちゃう行動なんだけど、実は発達障害のサインだったりするんです。
そもそも発達障害って、IQとかEQっていう知的能力の“でこぼこ”がある状態なんですよ。
IQは、いわゆる計算とか知識の頭の良さ。EQは、優しさとか我慢強さとか、気持ちの安定みたいな“心の知性”ですね。発達障害の人は、このIQとEQのバランスがちょっといびつで、「これだけはめちゃくちゃ得意だけど、これはめちゃくちゃ苦手」みたいな偏りがあることが多い。
ASD(自閉スペクトラム症)の人は、特に“変化”に弱いのが特徴です。たとえば「相手の立場で考える」って行為も、ある意味では“視点を変える”ってことだから、ASDの人にとってはけっこうハードルが高い。
でも、自分と似たタイプの人の気持ちはすごくよく分かるんですよ。だから「人の気持ちが分からない」って言われると「いや、分かるよ」って返す。でもそれって、自分の延長線上にある相手の話で、まったく違う価値観の人になるともう想像できなくなる。そういう感じなんですよね。
一方で、ADHD(注意欠如・多動症)の人は「集中できない」「すぐ気が散っちゃう」っていう特徴があるので、忘れ物が多かったり、うっかりミスが増えたりします。
――職場でよくある“困りごと”の例には、どんなものがありますか?
益田 やっぱり、コミュニケーションの距離感がうまく取れないケースが多いです。
たとえば、「これって業務じゃないですよね?」とか言って、定時きっかりでパッと帰っちゃうとか。あとは、自分の趣味や予定を優先しすぎて、「すみません、見たい配信あるんで帰ります」みたいなことを言っちゃうとか。ADHDの人にはこういうの、けっこうあるあるです。
逆に上司側だと、「この人の面倒は自分が見なきゃ」って思い込みすぎて、距離が近くなりすぎちゃうケースもあります。自分の感情とか下心に気づかないまま、「自分は上司だから、この子をちゃんと導かなきゃ」ってなって、結果的に周りから誤解されるような行動になっちゃうことも。
それって、社会的洞察力――つまり、周囲の空気を読むことが苦手なんですよね。たとえば、上司と部下の距離が近すぎて「え、あの人たち付き合ってるの?」みたいな噂を立てられてしまうとか。本人に悪気はないんだけど、“ちょっと引いて見る力”(メタ認知)が弱いと、そういうことが起こりやすくなるんです。
病気とされる範囲は“広がっている”
――メタ認知が苦手な人が、職場でつまずきやすい場面って、他にどんなところがありますか?
益田 たとえば、マルチタスクとか、優先順位をつけなきゃいけない場面ですね。複数の部署から調整を求められて、「どっちの言い分も分かるけど、どうすればいいか分からない」みたいに混乱しちゃう。
両方の顔を立てるには、1段上から全体を見渡す“メタ認知”が必要なんです。でも、それが苦手だと判断がつかなくて、思考停止しちゃうこともある。
――向いている仕事や職場は、あるのでしょうか?
益田 昔だったら、ASDっぽい人は経理やデータ入力、ADHDの人は営業みたいに、ある程度の適職があったんだけど、今はもう時代が変わってきてますよね。
どんな職場も、変化に対応できて、丁寧に仕事ができる人が求められるようになってる。だから、以前に比べると病気とされる人の範囲が広がっているというのはあります。そうなると、「自分はどう働くのがいいのか」を考えることがすごく大事になってきますよね。
実際、起業したりフリーランスになったりする人もけっこういます。苦手なことを抱え込みすぎずに、得意なことを活かして、自分に合った形で働いていけるといいですね。