“全部できる必要なんてない”

――苦手なことがあっても、職場でうまくやっていくためのコツはありますか?

益田 まずは「全部できる必要なんてない」ってことを知ってほしいです。

 自分の苦手は誰かに助けてもらっていいし、逆に得意なことを伸ばしていけばいい。最近はAIツールも使えるから、たとえば音声入力で「今日やることリスト」をAIに整理させるとか、“見える化”するだけでもずいぶん違いますよ。

 あと、新卒のうちは特に「とりあえず上司の言うことを聞いてみる」が基本です。発達障害の人って、自分のやり方にこだわっちゃいがちなんだけど、最初のうちは「そういうもんか」と思って一回受け入れてみる。それだけでもだいぶ違ってきます。

――たとえ不得意なことがあっても、強みを活かせる場面はあるんでしょうか?

益田 もちろんありますよ。欠点があったとしても、他の部分でカバーできるケースってたくさんある。

 たとえば「マルチタスクは苦手だけど、絵を描くのはすごく得意」とかね。発達障害は“全部できない”わけじゃなくて、“一部が極端に苦手”っていうだけなんです。

 僕自身もそうですよ。運動神経はすごく悪くて、ダンスとかまったく覚えられないし、意味が分からない。でも、精神科医としての仕事にはまったく支障がない

 これが外科医だったら、正直きつかったと思う。だって、手先の器用さとか、他人との連携とか、瞬時の判断が求められる世界だから。心臓外科なんて、特にそういう能力が問われるでしょ?

 でも、精神科医はそういう動的なスキルがそこまで求められない。だから自分に合った場所を選べば、苦手があっても十分やっていけると思うんです。

益田裕介(ますだ・ゆうすけ)
早稲田メンタルクリニック院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニックを開業。YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」を運営し、登録者数60万人を超える。患者同士がオンライン上で会話や相談ができるオンライン自助会を主催・運営するほか、精神科領域のYouTuberを集めた勉強会なども行っている。著書に『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』(KADOKAWA)、『精神科医の本音』(SBクリエイティブ)、『【心の病】はこうして治る まんがルポ 精神科に行ってみた!』(扶桑社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 メンタルの話 メンタルの悩みとギモンを専門医がすべて解決!』(日本文芸社)などがある。