その情報の多さが、自己肯定感を下げる原因になっているとされています。私が子どもの頃は、ちょっとピアノが弾けるだけでも「すごい」と周りから褒められたものです。でも今は、ネットを開けば本当に小さな子が難しい曲を弾いていたり、即興で演奏をしたり、「すごい」人が当たり前のように目に入ります。

 以前は、周囲の人しか比べる対象がなかったのに、今はネットのせいで全世界の人と比べることができてしまうのです。自分の「すごい」がそれによって消されてしまい、自己肯定感が下がってしまうのではないかといわれています。

 もちろん比較自体は悪いことではありません。私たち人間は社会性の生き物ですから、ある社会の中で自分が特定の生物学的地位に収まるためには、人と比べる必要があるからです。ある組織において、自分がフィットするのは、経理なのか、営業なのか、開発なのかというのも、人との比較によって決まる部分があります。

 ただこの比較が、どの場面、どの分野においてもできてしまうことが生きづらさを生んでいるのです。キラキラした生活がSNSにアップされているのを見て、心がざわつくとしたら、それは自分の中にある比較の意識が強いからです。

すでに世の中は
「個別化」の時代

 比較をしないということは、無駄な競争に巻き込まれないことです。

 比較をし続け、そこで勝ち上がることができれば、学歴レースを経て、出世レースで生き残ることができます。しかしその競争に勝てる人はほんの一握りです。

 現代において「成功を収めるタイプが変化している」ことを証明したハーバード大学教育大学院研究員と神経科学の専門家が行った研究があります。その名も「ダークホース・プロジェクト(注2)」。「ダークホース」は、「(競馬で)能力が未知数の馬」という意味です。

 私たちが生きてきた「産業化時代」は、「標準化時代(the Age of Standardization)」と呼ばれました。日本でも、義務教育は標準的な人材の育成をめざしてスタートしました。

 しかし、時代と社会が変わり、すでに世の中は「個別化の時代(the Age of Personalization)」を迎えています。そして個別化の時代に活躍するのが、「ダークホース」だというのです。

注2 『Dark Horse 「好きなことだけで生きる人」が成功する時代』トッド・ローズ、オギ・オーガス(著)、大浦千鶴子(訳)、伊藤羊一(解説) 三笠書房