今週のキーワード 真壁昭夫エヌビディアのジェンスン・フアンCEO Photo:Chip Somodevilla/gettyimages

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが北京を急きょ訪問。トレードマークの革ジャンではなく、正装で中国貿易団体トップと会談した。一方、習近平国家主席は主要な半導体企業が拠点を置くマレーシアを訪問。中国はマレーシアを、対米貿易戦争の仲間へ引き込もうとしているのか。習氏が「アジアの家族」というワードを使い始めた狙いとは。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

トランプvs習近平の我慢比べはいつまで続くか

 米エヌビディアは4月15日、中国向けAI(人工知能)チップの「H20」が政府の輸出規制対象に指定されたと発表した。この関係で2~4月期、同社は最大55億ドル(1ドル=142円で約7810億円)の費用を計上し、それだけ利益額を圧迫することになる。

 トランプ政権の対中国の締め付けは、中国のAI分野に相応の影響を与えるとみられる。中国政府は現在、EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)など新エネルギー車の買い替え補助金政策で内需の拡大を急いでいるものの、なかなか個人消費が盛り上がらないのが実情だ。

 不動産の市況悪化には依然として歯止めがかからず、家計の財布のひもは固いまま。企業の設備投資も停滞気味だ。それに加えて、トランプ政権の高額関税で輸出が減少すると、雑貨などを生産する中小企業の倒産件数が増加し、失業率も上昇すると懸念される。

 H20チップの対中輸出の厳格化が明らかになった後、中国本土では景気の先行き懸念を反映して長期金利が低下した。中国株の先安観を警戒する投資家も増えつつあるようだ。

 問題は、トランプvs習近平の我慢比べがどれだけ続くかだ。米中の貿易戦争が長期化すると、世界経済全体に重大な下押し圧力がかかる。早期にどちらかが歩み寄りの態度を示さなければ、世界同時不況が起きるリスクは高まる一方だ。