エヌビディアチップの輸出が厳格化されたワケ
トランプ氏は相互関税について、主要先進国に対する上乗せ税率部分の発動を90日間延期する一方、中国に対する関税は引き上げた。中国も即座に報復し、貿易戦争は激化の一途をたどっている。
中でも焦点となっているのが半導体をはじめとする先端分野だ。米連邦議会下院の中国特別委員会は、中国のAI新興企業ディープシークを、安全保障上の脅威であるとした。委員会は、「ディープシークは中国政府の意向に合わせた回答をする恐れが高い」と指摘する。
同委員会は、エヌビディアが中国向けに開発し供給してきたH20にも言及。米国企業が開発したAI半導体の輸出管理を、これまで以上に強化し規制を徹底すべきと報告した。第3国を経由したチップの対中輸出や密輸も含め、先端分野のソフトとハードの両面で米国の技術が中国に漏れない体制を一層強化するという。
これを受けてトランプ政権はH20チップの管理を厳格化。今後は輸出の都度、許可を得ることが必要になるだろう。エヌビディアにとって事業効率の低下が避けられず、コストは増加する。事実上のH20対中禁輸措置との見方もある。
今回の発表で興味深いのが、米民主党は共和党と同等かそれ以上に対中政策で強硬姿勢であると明確になったことだ。人権や強制労働を巡っても米民主党は共和党以上に対中強硬とみられる。これはトランプ氏にも好都合で、対中国の強硬スタンスを取りやすい環境だ。
一方で、エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)が4月17日、北京を急きょ訪問した。トレードマークの革ジャンではなく、ネクタイ、スーツの正装で中国貿易団体トップと会談。フアンCEOの危機感の高さがうかがえる。
その前日、オランダでは大手半導体製造装置メーカーのASMLが、トランプ関税により2025年と26年の事業見通しの不確実性が高まったと発表した。米中貿易戦争により、世界経済をけん引した、半導体および先端分野の事業環境が急速に不安定化している。この状況は、わが国の景気にも暗い影を落とすことになる。