
トランプ政権がベトナムを
問題視する理由
トランプ関税によって、ベトナム経済が直撃を受ける懸念が高まっている。トランプ米大統領は、4月2日、貿易相手国に対する相互関税の導入を発表した。鉄鋼、アルミなど、商品別に課される場合を除き、すべての輸入品に一律10%の関税を課した上で、対米貿易黒字が大きい国にはさらに関税を上乗せするというもので、ベトナムは46%が課されることになった。
その後4月9日には、報復措置を取っていない国・地域に対する上乗せ分適用の90日間停止が発表されたが、関税をめぐるトランプ政権の発表は日々変化しており、予断を許さない。
ベトナムにこれほど高い相互関税が示されたのは、対米貿易黒字の大きさによる。米国通商代表部(USTR)が公表した関税率の算出式によると、米国の輸入額に対する対米貿易黒字額が大きい国ほど高い相互関税率が課される形になっている。
この点、米財務省が2024年11月に公表した為替報告書によると、1年間のベトナムの対米貿易黒字額は1120億米ドルと、中国(2470億米ドル)、メキシコ(1590億米ドル)に次いで大きい。ベトナムは相互関税導入に関するホワイトハウスの公式文書の中でも、米国からの輸入品に課す関税が高い国としても名指しされているが、根本的には、こうした対米貿易黒字の大きさが、トランプ政権に問題視されている。
ベトナムの対米貿易黒字は、外資企業による直接投資を背景に輸出産業を発展させる過程で拡大してきた。ベトナムの過去10年の実質GDP成長率をみると、コロナ禍を除いて概ね6~7%と、他のASEAN諸国と比べても高い成長を達成しているが、そのうち2~3%が、総固定資本形成(民間設備投資、公共投資)の寄与である。
これは、外資企業による国外からの直接投資(対外直接投資、FDI)が強く影響している。すなわち、外資企業による国内設備投資が増加するとともに、これらの外資企業が輸出を拡大したことが成長を牽引(けんいん)してきた。実際、外資企業による財輸出は、国内企業を大幅に上回っている。
こうした下での対米輸出に対する高関税は、ベトナムにとっては大きな打撃である。特に輸出額の約30%を占める最大の輸出先である米国向けの減少の直接的な影響は大きい。
加えて、関税引き上げによって最も大きな影響を受ける中国も、ベトナムにとって米国に次ぐ輸出相手国であるため、中国の景気減速も、輸出減少を通じてベトナム経済にマイナスの影響を及ぼすこととなる。さらに、関税が引き上げられ輸出が大幅に抑制されるようなことになれば、輸出を牽引してきた外資企業によるFDIの減少にもつながりかねない。