トランプ関税「46%」標的になったベトナム、米中摩擦の“漁夫の利”縮小後も成長は可能か?Photo:PIXTA

46%というトップクラスの関税をトランプ政権よりかけられたベトナム。中国からの迂回(うかい)輸出先となったために標的とされた形だ。一律10%分を除いた上乗せ分は90日間停止とされたが、影響は回避できない。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)

「チャイナ・プラス・ワン」の筆頭となり
対米輸出額が拡大

 足元の世界経済や国際金融市場は、「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ米大統領の一挙一動に揺さぶられている。

 中でも4月2日にトランプ氏が発表した相互関税については、全ての国に対して一律で10%の関税を課すとともに、個別にVAT(付加価値税)や為替政策、規制など非関税障壁を勘案した平均関税率を算出し、その水準に基づく税率を設定する方針を示した。

 結果、トランプ氏は関税政策を巡って「例外なし」との姿勢を示し、全ての国を対象に相互関税を課すとともに、一部の国が報復措置に動いたことで貿易戦争に発展することが懸念されている。こうした動きは世界貿易、ひいては世界経済に深刻な悪影響を与えることが危惧される。

 ここ数年、ベトナムは、激化する米中摩擦の背後で中国に代わる生産拠点として注目を集めてきた。さらに、コロナ禍や世界経済の分断を受けて世界的にサプライチェーン見直しの動きが広がったこともベトナムへの注目を高めた。

 その結果、同国は「チャイナ・プラス・ワン」の筆頭として対内直接投資の受け入れを拡大させ、対米輸出も大幅に上振れしてきた。こうした動きも追い風に、昨年の対米貿易黒字は過去最高を更新し、米国にとって同国は国別の貿易赤字額で3番目に大きくなるなど「トランプ関税」の標的となることが懸念された。

 よって、ベトナム政府は米国から輸入するLNG(液化天然ガス)のほか、自動車、エタノールに加え、鶏もも肉、アーモンド、リンゴ、サクランボなど農産品に対する関税を引き下げた。

 さらに、第2次トランプ政権でDOGE(政府効率化省)を率いるイーロン・マスク氏が代表を務めるスターリンク社が提供する衛星通信サービスの試験サービスを許可するなど「譲歩」する姿勢を見せた。

 次ページでは、トランプ政権のベトナムへの関税政策と、その経済への影響を分析する。