黒田ショックに揺れる長期金利
長期国債の利回りである長期金利が、一般の人に注目されることは通常はあまりなかった。株価や為替レートはいろいろな意味で私たちの生活に直接関わってくるが、国債利回りの動きは新聞紙上の話で、私たちの生活とはあまり関係ないからだ。その意味で、長期金利は市場のプロたちの世界の話であった。
もちろん、私たちの日々の生活に関係するその他の金利、たとえば預金金利や住宅ローン金利は、国債利回りである長期金利の動きと連動している。世の中にはさまざまな金利があるが、それらはすべて強い相関をもって動く。それでも、多くの人の関心は預金金利や住宅ローン金利に対するものであり、国債利回りではなかった。
その長期金利に世の中の関心が集まりつつある。日本銀行が大胆な金融緩和を行い、長期国債を大量に購入する。その動きを受けて、長期金利が大きく変動し始めたのだ。そして、大胆な金融緩和策で市場が動くほど、日本政府が抱える膨大な公的債務への注目も集まる。長期金利は国債価格でもある。長期金利が上昇を始めれば、総理大臣は国会で「日本の財政運営に懸念はないのか?」といった質問を受けることになる。
4月に日本銀行の黒田東彦総裁が、長期国債を大量に購入する大規模な量的緩和策を発表してから、長期金利は急速に低下し始めた。それ以前、安倍晋三政権になってから白川方明前総裁のもとでより踏み込んだ金融緩和策がとられたときにも、長期金利は低下傾向を示していた。
長期金利は様々な思惑が重なり合って決まる
日本銀行が長期国債を大量に買えば、長期金利が低下するのは当たり前だと思う人も多いかもしれない。しかし、話はそう簡単ではない。「長期」という名前が付いていることにも象徴されるように、長期金利は足もとでの長期国債の需給動向だけでなく、将来の経済の動きを反映する存在であるからだ。
現実にも、黒田総裁が就任してから、長期金利は大きく変動することになる。就任時の3月中旬には0.6%前後の水準であったのが、4月の金融緩和を受けて一時は0.3%に近い水準まで下落した(4月3日)。しかし、それから1ヵ月ほどで、今度は上昇に転じ、5月23日午前には一時1%にまで急上昇した。その後は下落して0.8%台で推移している。