JA全中は安易に政治に手を出し
安倍晋三氏の逆鱗に触れた
実は、福島氏は山口県宇部市の出身で、結婚の媒酌人は同県出身の安倍元首相の父親、安倍晋太郎氏が務めました。つまり、安倍元首相は福島氏と親子2代にわたる付き合いをしていた。その福島氏を押しのけて国会議員になった山田氏が自分の選挙のために悪用した中央会を、安倍氏がよく思うはずがない。まして安倍元首相は曲がったことを許さない一途な性格の持ち主です。
私は、福島氏から安倍氏との関係を聞いたとき、すべての謎が解けたと思えました。実は、中央会制度の廃止が決まった当時、自民党内も農水省内も「そこまでやる必要があるのか」という声は大きかったのです。にもかかわらず、廃止が強行されたのは、安倍氏の強い思いがあったからだと考えるのが自然なのです。
では、山田氏は、そういった政治のリスクを取って参院議員になって、何をやりたかったのか。私には、彼が国会議員になりたくてやっただけのようにしか見えないのです。彼によって、農業や農協が良くなったとか、皆の意識が変わったとか、利益になったといったことは一切ないですから。

――中央会制度が廃止されたのは、農協から見て中央会が必要でなくなっていたからではないですか(詳細は特集『JAグループ崩落』の#10『【農協役職員が期待するJA組織ランキング】首位は意外な連合会…低迷するJA全中、県中央会は回答者の6割が「不要」』参照)。中央会が時代にそぐわなくなったなら、政府から監査権限などを剥奪されたり、JA全中が解体されたりする前に、自分たちで改革すればよかったのでは。
それは正論というものです。農協運動は制度に依存して進められてきました。いいか悪いかは別にして、政府と農協は不離一体だったのです。だから司令塔は(国の意思を代行する機関として生まれた)JA全中だったわけです。
それを変えるのは非常に難しい。極端なことを言うと、中央会が制度上なくなった今、新しい農協運動が展開できるかというと、私は非常に難しいと思っています。実際に、(JAグループは)中央会廃止の総括をせず、何もなかったかのように、過去の延長線上にあることを続けている。新しい理念や農協論について、私以外に論じている人は極めて少ないのです。
だから(JA全中がITシステム開発で失敗して)200億円の損失を出すことになっても、皆口をつぐんでいて、自由闊達に組織の再建策を議論しようという雰囲気はありません。(JA全中や都道府県中央会などの)前向きな改革の話は出てきていないのです(JA全中などの改革については、福間氏のインタビューの第2弾『JA全中の元常務が古巣の体たらくに喝!「JAグループ大再編」は必至…全中の解散、新たな司令塔の立ち上げを大胆提言』参照)。
保身に走り、既得権をむさぼるJA全中幹部…
農協をけん引する力を失った組織の末路
――著書の中で、JA全中の幹部について、「選ぶ方も選ばれる方もお互いが自らの利益や都合ばかりを優先し、当事者間に確固たる政治的政治信条や組合協同組合指導者としての矜持がなければ、組織はその影響を受けて限りなく腐敗していくことを物語っている」という記述があります。これは相当、厳しい指摘ですね。農協リーダーの選出方法や育成についてどんな問題意識がありますか。
農協運動の指導者や政治家には、農業や農協はこうあるべきだという確固たる理念がないといけません。自分の利益のためにどう相手を利用するかで物事を考えていては、悲劇的なことになるのではないでしょうか。
なぜ、山田参院議員が3選までやったかというと、JA全中などの幹部らに利益があるからであって、そこに理屈はないのです。当時のJA全中幹部も全国農政連会長も山田氏の3選を支持して、北海道から出た若手候補を予備選で落としている。山田氏を通すために予備選の選挙制度を変えることまでやりました。
3選に反対したJA全中関係者も一部いましたが、排除されました。結果、JA全中は、自分たちの既得権益を保つための主張をするばかりで、新しいことを提案できない組織に成り下がりました。
ダイヤモンド編集部は、福間氏のインタビューの第2弾『JA全中の元常務が古巣の体たらくに喝!「JAグループ大再編」は必至…全中の解散、新たな司令塔の立ち上げを大胆提言』をダイヤモンド・オンラインで配信している。第2弾では、福間氏に、JAグループの全国組織の再編、JA全中を解散した後に代表機能を担う新組織の在り方、新たな農協論について余すところなく語ってもらった。