
JAグループの中枢にいた人物が、覚悟の上で、ダイヤモンド編集部のインタビューに応じた。その人物とは、全国500農協を束ねてきたJA全中元常務の福間莞爾氏だ。福間氏は、機能不全に陥った古巣のJA全中は解散し、新たな司令塔を設立するJAグループの再編を提言している。実は、その再編計画は、福間氏が現役の役員だった時代にひそかに進め、実現する一歩手前まで行った案だった。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
かつてひそかに進められた
JA全国組織の再編を今こそ実行すべきだ
――2015年の農協法改正で、農協中央会制度は廃止となり、JA全中は監査権限などの特権を剥奪され、全国に500組織ある農協を動かす力の源泉を失いました。その後のJA全中をどう評価していますか。
残念ながらJA全中は、既得権益の擁護のためにしか動けない組織になってしまいました。自分から積極的に政策を提案したり、政府を動かしたりといったことはもう期待できないと思います。
JAグループの頂点に立ってきたJA全中ですが、中央会制度が廃止され、(農協法で特権を与えられた特別な組織から)一般社団法人に格下げになりました。農協をけん引する力の源泉だった農水省からのお墨付きも得られなくなってしまった。
つまり、制度上はなくなったけれども、(指導機関として君臨した組織としての)亡霊は残っている。そして、いまだにJAグループの全国組織や農協から、JA全中に年間47億円ものお金が集まる。そんなに予算があるなら、それを使わない手はない。死んだ動物の肉というのはおいしいものだから、皆で食らいましょうということで、死肉に群がって貪る連中が出てきているのです。
――今回のインタビューの第1弾『JA全中はなぜ“農協の司令塔”の地位から転落したのか?「独裁」で組織が腐敗した内幕を元常務が大暴露!』で福間さんは、農協中央会制度が廃止に追い込まれたことや、古巣のJA全中が腐敗したことの要因として、元専務で参院議員の山田俊男氏による「独裁」と「組織の私物化」を挙げました。
要するに、山田氏を参院議員として政界に送り込んだことをはじめとして過去の失敗を認めず、中央会制度が廃止された理由を総括せず、何事もなかったかのように同じことを続けている。そのほうが、自分にとって得だと思う連中が大勢いるのです。
――そういう姿勢では、組織の未来は描けません。若手の職員は幹部たちの保身を見てモチベーションが下がり、離職していくのではないでしょうか。
JA全中は、JAグループが改革をしないために存在しているともいえるのです。どういうことかというと、私が属している研究会「新世紀JA研究会」が、全国組織に改革などを要請する機会があるのですが、「それはJA全中が言っていないことだから」あるいは、「それはJA全中がやることだから」というもので、取り合ってもらえない。要するに、改革に取り組まない理由をJA全中のせいにされているのです。私はそれを「負の代表機能」と呼んでいます。
――農協がJA全中に会費を払う理由が、「改革をしない言い訳にできるから」では、農協の組合員からあきれられてしまいそうです。JAグループには、農林中央金庫、JA共済連、JA全農などがあります。それらが、自分の事業を優先するのは当然のことです。それらの利害を調整しつつ、JAグループ全体の方向性を出していくという中央会が担っていた機能は今後も必要ではないですか。
その通りです。農協が、信用事業(銀行)、共済事業(保険)、経済事業(農業関連)などを総合的に行っている以上、これらをマネジメントする組織が必要です。それは、農林中金やJA全農ではできない。
農協は事業だけをやっているわけではありません。事業体とは違う役割として、組織の宿命として、地域があるのです。会社は利益団体だから地域は関係なく、グローバルな形でやればいい。しかし、農協は必ず地べたの地域、コミュニティー活動が必要です。そこを体現する組織は、やはり中央会になる。まあ、必ずしも中央会という名称でなくてもいいのですが。
――JA全中は、ITシステム開発に失敗し、200億円の損失を出すことになります(詳細は特集『JAグループ崩落』の#3『【独自】JA全中がシステム開発失敗で200億円の損失!農協に負担要求で非難囂々…役員辞任、組織の改廃は必至』参照)。結果、25年度は36億円の赤字予算を組まざるを得なくなるなど、財務が悪化しています。幹部人事では、3月31日付で、山田参院議員を長年支えてきた専務の馬場利彦氏ら幹部が退任しました。今後の組織の在り方は、8月の通常総会に向けて検討するとしています。どんな組織改革が必要でしょうか。
次ページでは、JA全中は一旦、解散した後、一から出直すべきであると考える福間氏に、JAグループの全国組織の再編、代表機能を担う新生JA全中の在り方、新たな農協論について余すところなく語ってもらった。