【マンガ】一流企業のゴーマン社員にイラッ→町工場の社長が繰り出した「奥の手」がスカッとする!『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第12回は、ファンビジネスに重要な2つの要素について解説する。

必ず食らいついてこのカネかき集めてやる!

 主人公・花岡拳は、自分の会社に1億円の出資をしてくれた実業家・塚原為之介に、Tシャツ工場の買収とアパレル事業の開始を報告する。

「モノを作って売る…これは商売の原理原則、まさに本道だよ」

 そう言って決断を評価する塚原だが、同時に「商売するなら絶対に人のせいにするな」「業種なんて関係ない。まずその世界で一番になること。未来の夢はそこからだよ」と語り、あらためて経営者としての覚悟を求めた。

 花岡は次の一手を打つため、元ホームレス社員の1人・大林隆二とともに、格闘技イベント「豪腕」の会場に向かう。花岡と知己の豪腕代表・大田原幸三を通じて、グッズ関連事業をとりまとめる超一流企業「一ツ橋物産」の井川泰子と出会う。

 豪腕のグッズとして、自社Tシャツの納入を打診する花岡。しかし井川はその提案をにべもなく断る。現在展開する豪腕グッズの衣料品は安価な中国製。日本製である花岡たちのTシャツでは売値が上がってしまうため、取引ができないというのだ。

 だがもちろん、花岡はあきらめない。ファンが熱狂する豪腕の会場を眺めて、思いを新たにする。

「簡単に手放すわけにはいかねえ!必ず食らいついてこのカネかき集めてやる!」

ファンビジネスに必要なのは「1000人の真のファン」

漫画マネーの拳 2巻P76『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 Tシャツビジネス拡大の次の一手として、格闘技イベントという「熱量の高い場」に参入を決意した花岡。生まれたての小さなブランドが大きな波をつかむには、製品の魅力だけでは戦い抜けない時代だ。

 雑誌『WIRED』米国版の創刊編集長であるケヴィン・ケリー氏は、かつて「1000 True Fans(1000人の真のファン)」というテーマのコラムを書いている。

 同氏はカルチャー、テクノロジー、ビジネスなどなど、幅広い領域の編集者に影響を与えてきた人物だ。このコラムに関しては、編集者だけでなく、ファンビジネスやマーケティングに関わる人たちの間でも、15年以上にわたって語り継がれている。

 大きな市場を狙わなくても、自分たちの商品であれば何でも買ってくれる小さくてコアなファン層(つまりこれが「1000 True Fans」である)がいれば、クリエーターやブランドは生き残れる――ケリー氏は、ファンビジネスについてこのように説く。

 また、ファンビジネスを実現するために大事なことが2つあるとした。1つめは、「(同じファンたちから)100ドル程度の利益が得られる商品を毎年作る」ということ。これは新規のファンに商品を売るよりも、既存のファンに商品を売りつづける方が簡単だからだ。

 そして2つめは、「ファンと直接の関係性の関係を持つ」こと。かつてはいちクリエーターでは難しかったファンビジネスも、インターネットや決済サービスの進化のおかげで、容易に実現できるようになっている。

 マンガで描かれているのは、ネットではなくリアルの場ではあるが、格闘技イベントやアーティストのグッズビジネスは、まさに「1000 True Fans」の熱狂に支えられていると言っても過言ではない。今まさに熱狂の中心地となりつつある「豪腕」の経済圏。花岡たちはそこに大きなチャンスを見い出したのだ。

 井川に軽くあしらわれてしまった花岡だが、豪腕の会場の熱気を感じ、あらためて井川への「宣戦布告」を誓う。次回以降、花岡のグッズビジネス参入への挑戦が本格化する。

漫画マネーの拳 2巻P77『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 2巻P78『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク