21年には政府が関係省庁を集めた連絡会議を発足し、カスタマーハラスメント対策の推進で予算が成立した。22年には、企業向けのカスハラ対策マニュアルをつくった。
取り組みは政府にとどまらず、自治体レベルでも広がりだしている。秋田県は22年4月にカスハラ禁止を明記した条例を施行。東京や北海道でも条例制定が進み、三重県でも条例化を含め、カスタマーハラスメント防止に向けた対策の検討が進む。岡山市は23年4月から消費者教育推進計画に、カスハラ防止の啓発活動を明記した。高知県や札幌市ではカスハラ防止の啓発ポスターが作成された。

現場の組合員からは「自分たちの問題だと思っていたら、社会の問題なんだって思えるようになった」。そんな言葉が寄せられる。
現場発の提起から、政府自治体を動かすまでの訴求力と推進力を生んだカギはなんだったのか。波岸さんはこう振り返る。
「実際にどれだけのハラスメントがあったか、どんなハラスメントがあったのかといったアンケートによるデータとエビデンスがあったこと。これを訴える組合員から議員まで、同じような経験や思いを有していたこと、そして映像なども含めて、幅広い発信が社会の共感を呼べたことが大きかったのではないか」
カスハラが徐々に広まるにつれ、トラックやタクシーのドライバー、役所の窓口担当者など、対人業務のある連合内の別の産業別組合でもそれぞれ独自の調査をする動きが生まれていった。
22年4月には、自治労や運輸労連など15産別がUAゼンセン本部に集まり、意見交換した。
波岸さんは、次の目標を見据えている。
「カスハラという軸にこだわってきたから、問題をクリアにできた。でも、ここからはもう少し幅広くハラスメント対策に位置付ける形で、さらに推進できる方法を考えていきたい」