カスハラはまだ早いから除外?
現場と国会の間の壁

 この年、UAゼンセン組織内議員の川合孝典参院議員と、NTTなどの通信業界で働く人たちの情報労連の組織内議員の石橋通宏参院議員が、相次いで国会で質問に立った。

 石橋議員も、傘下にある病院の働き手の話を聞いて、行き過ぎたクレームや迷惑な行為があることに問題意識があった。またコールセンターなどで働く人たちにとっても、切実な課題だった。

 2018年4月に参院に提出された民進党と希望の党が共同でつくった議員立法の「パワハラ規制法案(労働安全衛生法の一部を改正する法律案)」には、こうした問題意識を受けて、労使によるガイドラインの策定などを事業者に義務付ける過剰クレーマーへの対応策が盛り込まれた。

 この影響からか、18年に成立した「働き方改革関連法」の付帯決議には、企業のカスハラ対策が盛り込まれた。

 ただ、すべてがトントン拍子だったわけではない。2019年に労働施策総合推進法が改正され、パワハラ防止が義務付けられたが、カスハラは措置義務に入らなかった。パワーハラスメントや長時間労働の是正が当時の議論の中心でもあって、当時は政府関係者から「パワハラも、セクハラも10年かけてきた。カスハラは、まだ消費者団体との意見交換が少なすぎる」ともいわれた。

 ただ、全面的な否定ではなく、将来に余地を残した表現でもあった。波岸さんと安藤さんはあきらめず、あらゆる機会をとらえて、カスハラの問題の提起を続けた。

 同じ年に厚生労働省審議会で検討された「改正労働施策総合推進法」における指針では、「事業主が他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関して行うことが望ましい取組」の内容が記載された。

社会問題になったきっかけは
マスクを買えない客の暴言

 改めてカスハラが世間の注目を集めたのは、2020年のコロナ禍だった。なかなか手に入らないマスクを買おうとする客が、ドラッグストアの店員に暴言をはく場面などが頻発し、問題化した。

 19年の参院選で当選したイオンリテールワーカーズユニオン出身の田村まみ参院議員が、予算委員会で、安倍晋三首相(当時)に質問。買い物客に冷静な対応を呼びかける啓発用ポスターなどが作成された。