「女性従業員の身体に触れるセクハラをされるお客様が来店され、止めようとする男性従業員への接客に対するクレームをつけてきた。110番通報し、厳重注意をしたところ、逆切れされ、通報した私に対して誹謗中傷をインターネット掲示板へ実名をあげて提示し、説教された」
労組によってはすぐにも取り組むべき事案も含まれていた。そもそも自由記述欄がこんなに書かれることも珍しいという。
176万人の署名が集まる
法改正への第一歩
UAゼンセン流通部門内の「クレーム対応できてこそ一人前」「お客様の申し出が最優先」といった考え方や風潮が一変した。現場の実態のひどさが可視化され、対応が必要だと認識が共有されるようになった。報道で取り上げられ、世論の関心も生まれ始めた。
同じころ、波岸さんたちが、アンケートと同時並行で進めていたのが、こうした迷惑行為に関するガイドライン作りだった。省庁との意見交換でも、定義を尋ねられ、自分たちの考えを整理しておくことが重要だと思ったからだった。
UAゼンセンにはインハウスの弁護士の松﨑基憲さんがいて、ガイドラインの素案をつくってもらった。ただ「悪質クレームの定義とその対応に関するガイドライン」として出てきたのは、労組のガイドラインというよりも、法律の文言のように表現が硬い文章。
波岸さんたちはいったんたじろいだ。「組合のガイドラインだし、困ったときは〇〇に伝えるとか、もっとわかりやすい方がいいのではないか」
社会政策委員会において、1カ月ほど議論したが、最後に松﨑さんから言われた。「法改正まで視野に入れるなら役所とやりとりすることになる。そのときは、こういう言葉遣いがいいですよ」。その言葉に従った。実際、その通りだった。
目標だった法制化に向けた1歩は、2017年のアンケート結果が出て、始まった。アンケートが公表されて4カ月後の17年11月、厚生労働省「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」へ消費者からのハラスメント対策について意見具申がおこなわれた。
波岸さんは思う。「アンケート結果の内容もひどく、それが大きく報道もされ、国も無視できなくなったんだろう」
翌年には、UAゼンセンとして、悪質クレーム対策を求める署名活動を展開し、他の産別の協力もえて、176万筆を集めた。厚生労働省に段ボール箱で持ち込み、厚労相に悪質クレーム対策の法整備を要請した。