栗山 野球って運の要素も強いスポーツです。内野手の正面に飛んだ打球がイレギュラーしてヒットになるとか、打ち損なった打球が野手と野手の間に落ちて点が入るとか。だから、運をいかに味方につけるかというのが1つのテーマになるのですが、それは結局、生きざましかないなと思うんです。周囲のために尽くして生きている人には神様や天が応援してくれる。僕にはそういう感じがすごくあります。
一流選手たちが私心を手放し
チームのために一致団結した
横田 WBC世界一の勝運を呼び込んだ要因もそのあたりにありそうですね。
栗山 そうですね。選手たち全員が自分を捨ててくれた、自分のことよりチームが勝つために何をするかに集中してくれた。要するに、「無私」になってくれたことが大きかったと思います。
あれだけ能力の高い一流の選手たちですから、当然プライドもあります。でも、ずっと試合に使ってあげられない選手もいるわけです。そのときに、普通であれば「俺を使えよ」「なんで出してもらえないんだ」みたいな気持ちも心の中で生まれますよね。
でも、今回のチームはそんなことが一切なくて、大会の途中から皆が私心を消してくれて、ベンチにいてもとにかくチームが勝つために明るく声を出して盛り上げたり、誰かが活躍すると心の底から喜んでくれました。そういう空気がやっぱりチームを引っ張って前に進めたという実感があります。
横田 監督は「全員がキャプテン」と捉えているとのことですが、ベンチの人間がその実感を持つのはなかなか難しいと思うのですが、その点はいかがですか。
栗山 全員が自分を捨ててくれてチームのために尽くしたら、勝ちに近づく可能性が高いと考えて「全員がキャプテンだから、1人ひとりが俺のチームだと思ってやってほしい」と言ったんですけれど、いくら言葉で説明しても勝てるイメージが持てないと伝わらないケースがありますよね。
そういう仕掛けはこちらが考えてやるんですけれど、それとは別に、選手が自分の心の中にスイッチをポンと入れてくれる瞬間があると思うんです。