横田 野球も私心を去ることによって、今言われたような天の神様、大いなる意思とひとつになっていくのでしょう。こうなってくると、我々の仏道修行と同じです。
栗山 僕が尊敬している稲盛和夫さんも「動機善なりや私心なかりしか」とおっしゃっていますが、魂がきれいに磨かれた状態になっていると、物事がいい方向に進むような気がします。
選手のために、チームのために、ファンのために、というような自分以外の誰かのため、何かのためということを考えてやっていると、「私」が消えていく感覚があるんです。
運と神様が味方をするのは
どのような人物なのか?
横田 お聞きしたところによると、栗山監督はWBCが終わったあと、チェコを訪れたそうですね。私はそれを知って感動しました。チェコと言えば、WBCの1次ラウンドで日本と対戦し、大差で敗れたものの、その清々しいスポーツマンシップが注目を集めましたよね。
栗山 チェコ代表の監督は神経内科医で、選手も皆それぞれ本職を持ちながら野球をやっているアマチュアのチームです。彼らと試合をしていて、その全力プレーに勝ち負けを超えてものすごく感動したんです。象徴的だったのは、佐々木朗希の162キロの剛速球が膝に直撃したときの態度です。デッドボールを受けた選手はしばらく悶絶した後、一塁線上を走り出しプレーを続行したんですが、これには驚きました。
そういう彼らの必死さに触れたときに、試合中なのに感動してしまいました。勝ち負けではなく、これがスポーツの原点なのかもしれないと思い、どうしても現地に行ってみたかったんです。
横田 そこでチェコの監督かコーチから「素晴らしい選手になるためにはどうすればいいですか」と聞かれたときの栗山監督の答えにも、私は心を打たれました。「素晴らしい選手になるためには、よりよい人間にならなくてはいけない」と言われたそうですね。
栗山 チェコ代表の人たちは人間性が素晴らしいですよ。彼らと向き合ったときに、スポーツがどうあるべきか、人はどう生きるべきかを教えていただきました。