なぜペアローンは
相続時に注意が必要なのか?

 ペアローンは相続時にも注意が必要である。メリットとして触れたように、ペアローンでは夫婦それぞれが団信に加入できる。しかし、これは一方の死亡によって夫婦双方のローン残債が完全に消滅するという誤解を生みやすい。

 一方の配偶者が死亡した場合、その配偶者が加入していた団信によって、当該配偶者のローン残債は弁済される。しかし、生存している配偶者のローン残債は依然として残存する。住宅ローンという債務全体が消滅するわけではない点を明確に認識しておく必要がある。

 このため、残された配偶者は、自身のローン返済という経済的負担を引き続き負うことになる。配偶者の死という精神的な負担が増加する状況下においては、その影響は決して小さくない。

 さらに、ペアローンで購入した不動産は、通常は夫婦の共有名義となる。相続発生時、被相続人の有していた共有持ち分は、相続財産として遺産分割の対象となるため、残された配偶者にとって複雑な問題を引き起こす可能性がある。

 被相続人に配偶者以外の法定相続人(例えば、被相続人の子や親など)がいる場合、当該相続人にも共有持ち分の相続権が発生する。これにより不動産の処分や活用について、他の相続人との遺産分割協議が必要となり、共有名義をめぐって話し合いが長期化、紛争化するリスクがある。

 残された配偶者が引き続き当該不動産に居住を希望する場合、他の相続人に対して、その相続分に相当する金銭(代償金)を支払う必要が生じる可能性がある。これにより、残された配偶者は住宅ローンの残債以外の負担を強いられてしまうのだ。

遺留分の侵害により
親族間でトラブルの恐れ

 遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、遺産の最低限の取り分のことである。被相続人が遺言書などで特定の相続人に多くの財産を譲り渡した場合、他の相続人は遺留分侵害額請求権を行使できる。

 ペアローンを利用して共有名義の不動産を取得した場合、被相続人の共有持ち分の評価額が、他の相続人の遺留分を侵害するおそれがある。特に、他に十分な相続財産がない場合や、特定の相続人に多くの財産を遺贈する遺言書を作成している場合には注意が必要である。

 遺留分の侵害が発生した場合、残された配偶者は他の相続人から遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求められる可能性がある。これは、予期せぬ経済的負担となるだけでなく、親族間の関係悪化を招く要因になりやすい。