
首都圏の大規模修繕工事で
表面化した談合疑惑
マンションの資産価値を維持するために不可欠な大規模修繕工事。しかし、その裏で大切な修繕積立金が本来よりも割高な工事費用に充てられているとしたら――。
その懸念を裏付けるかのようなニュースが、この3月に明らかとなった。首都圏の大規模修繕工事における談合疑惑が表面化し、公正取引委員会(公取委)が約20社の施工業者に対し独占禁止法違反容疑での立ち入り検査に踏み切ったというものだ。この疑惑が事実であれば、将来の修繕資金の不足やマンションの資産価値低下など多方面への影響が懸念される。
この一連の報道に対し、驚きや不安を感じつつ、事態を深刻に受け止めたマンション所有者も多かったはずだ。しかし、業界事情に詳しい専門家の間では、今回の公取委の動きは、むしろ「起こるべくして起こった」事態でもあったのだ。
実際、公取委の調査はその後も続き、4月下旬には対象企業が30社超にまで拡大していることからも、問題の根深さがうかがえる。つまり、表面化した事件は氷山の一角に過ぎず、より根深い構造的な問題が存在しているとも考えられるのだ。
談合とは異なる
「構造的癒着」の実態とは
では、根深い構造的な問題、とは何を指すのだろうか。今回の疑惑で特に注目されるのは、本来、管理組合の代理人として公正な立場でチェック機能を果たすべき設計コンサルタント(設計事務所)が、特定の施工会社と癒着し、受注調整に関与しているとされる部分だ。これは、一般的にイメージされるような、施工業者同士だけで価格を申し合わせる「談合」とは少し異なり、「構造的な癒着」と呼ぶべき状態に近い。その癒着の具体的な仕組みの一つとして、業界内で「チャンピオン制」と呼ばれる慣行の存在が指摘されている。
これは、形式上は複数の施工会社から見積もりを取るものの、実際には受注させる施工会社(チャンピオン)が、設計コンサルタントなどによって事前に内定しているという「出来レース」の構造だ。他の業者は、チャンピオン企業を引き立てるための「当て馬」として、意図的に高めの見積もりを提出する役割を担わされる。驚くべきことに、当て馬役の見積金額まで、チャンピオン企業が指示して作成させているケースすらあるという。