
最期まで
“名言づくし”だった寛
嵩がすぐに帰ってこなかったことを千尋は責めるが、寛はちっともがっかりしていなくて、むしろ卒制を仕上げてからでないとゆるさない、殴っちゃるとこぶしを弱々しく握り、いつもと違う厳しさを見せる。これまでどんなときでもやさしかった寛が「殴っちゃる」と声を絞り出すところが悲しい。
「(自分の選んだ生きる道を)投げ出すがゆるさん」と最後まで、いいことを言っていた寛。
彼の握ったこぶしと、嵩が絵を描くために筆をぐっと握って、絵の具がついたこぶしとが呼応しているように見える。千代子(戸田菜穂)の「寛さんと嵩さんはやっぱり心が通じおうちょったがやね」と言うセリフとも合っている。
それにしても、週明け、いきなりの寛の死には驚いた。
『あさイチ』でも博多華丸・大吉と鈴木アナが呆然としていた。
大吉が「予想してなかったね」と言うと、華丸が「予想するもんじゃないけどね」とたしなめたのが印象的だった。
そう、ドラマは登場人物の死を見どころにしがちだ。実のところひじょうに不謹慎な娯楽なのだということを華丸の素直な意見によって改めて思うのだった(まじめか)。
さらに大吉が「お父さんいなくなると、ほかにお医者さんいなくなるね」とぽつり。確かに。
寛は嵩と千尋の自由を優先した結果、この町の人たちの医療環境を悪化させることになるわけだ。寛はかなり献身的に町の人たちに尽くしていた。こんないいお医者さんがいなくなると、町の人たちは本当に困るだろう。
それでも、嵩と千尋に、自分のやってきた善意を継がせようとは思わない。何を優先するかは個人個人が選ぶことなのだ。嵩は絵で、千尋は法律で、町の人たちを幸せにすればいいということだ。町の医療のために頑張りたい人が現れるのを待つしかない。
嵩が寛の死に目に間に合うことより絵を完成させることを優先したのがその象徴である。人生って苦い。どうしたものか。主題歌でいうところの「超絶G難度人生」を今日も噛みしめる。