以上のような経営理念の現況を踏まえつつ、制度的リーダーシップの説明に戻れば、フィリップ・セルズニック『組織とリーダーシップ』は制度的リーダーシップを発揮するリーダーがなすべきこととして、「制度(組織)のミッションと役割を設定」し、「パーパスの制度(組織)への体現」を図り、「制度(組織)の一貫性の防衛」を図り、「内部葛藤の整理」を行うことを挙げている。
このように、制度的リーダーシップとはミッションやパーパスといった組織のあるべき姿を示し、それらの組織的体現を図りつつ、インテグリティを維持するという、経営者層に固有のリーダーシップである。
こうした制度的リーダーシップの発揮は、後ほど紹介する事例のように決して容易ではないが、それが当該組織、さらには社会にとって重要であるという認識は幅広く共有されているといってよいだろう。
組織とは目的を実現する合理的手段で
「使い捨て可能な道具」?
セルズニックが著した頃とは大きく異なり、今日では、CSR(企業の社会的責任)、さらにはESG経営といった考え方が定着し、企業が製品やサービスの提供という経済的機能を超えて社会と関わることが当然視されているためである。
制度的リーダーシップに類似したものとしては、道徳的リーダーシップが挙げられる。
道徳的リーダーシップとは、組織内外の多様な価値観や公式的/非公式的な規範といったさまざまな道徳準則が相矛盾し対立するなかで、そうした矛盾や対立を止揚する新たな道徳準則を創造することとされている。
いずれも近年の行動科学的リーダーシップ論では扱われることが少ない価値的な側面に注目しており、かなりの共通性が見いだせる。