もっとも、それらの概念がどのような問題意識から生み出されたのかは若干異なっている。道徳的リーダーシップの場合はどちらかといえば組織内部の統合に重きを置いていたのに対して、制度的リーダーシップは、組織外部との統合という問題意識をもとに提唱された。

 それでは、なぜ制度的リーダーシップが必要となるのか。ここで初めて組織と制度の違いが問題となる。セルズニックは組織についてやや特殊な用法を採用しているので、そのような意味で用いる場合には「組織」と表記する。

 セルズニックによれば、「組織」とは一定の目的を実現する合理的な手段であり、「使い捨て可能な道具」と表現されている。このように組織を捉える見方は決して例外的なものではない。

目的達成の道具だった組織は
特定の価値によって「制度」となっていく

 たとえば、ある起業家が自身が思いついたアイデアをもとに新しいサービスを立ち上げようと創業したときには、その会社は起業家のアイデアを実現するための道具である。

 したがって、新しいサービスの立ち上げという目的実現についての効率性から「組織」が評価される。

 しかし、組織は社会のなかで存在しており、「組織」が目的を追求する過程で社会からのさまざまな影響を受ける。雇用した従業員、顧客、投資ファンドや金融機関、サプライヤーといった多様な人々や団体と関わり、それを通じて、「組織」の経済的価値には直接的に関わらない影響を受けている。

 たとえば、雇用している人々のダイバーシティをどのように受け止めて人事管理に反映すべきなのか、資材を調達するときに価格や品質といった経済合理性以外に重視すべきことはないのか、その会社が活動している地域社会に対してどのように関わるのか、といったことを決定する際に、そうした影響を受けていることが意識されるだろう。