要求に場当たり的に対処すると
組織のアイデンティティは曖昧になる

高尾義明 著
このような劇的な出来事だけでなく、日々のさまざまな活動のなかで組織は社会からさまざまな影響を受けている。
そうした制度的環境からのさまざまな要求に対して場当たり的に対処してしまうと組織としてのアイデンティティはあいまいになり、「制度」としての一貫性が失われたり、組織内部の葛藤が日々生じることになるだろう。
セルズニックが調査したTVAでは、その活動や意思決定プロセスに地域社会を参加させる「草の根」アプローチがとられたが、その過程で地域社会の支持を得るために地元のエリートや利益団体を組織内部に取り込んだことが意図しない結果を招き、TVA本来の目標を妥協させることになった。
このように、組織外からの要求に対する制度化が無軌道に進まないように、先に紹介した組織のトップ層による制度的リーダーシップが求められる。たとえば、近年では(大)企業はSDGsとの関わりを明らかにすることが求められるようになっている。
SDGsの17の目標は社会にとってすべて重要ではあるものの、一つの企業がすべての目標に同等にコミットすることは不可能であろう。
その企業の事業内容や歴史、ステークホルダーとの関わりなどを踏まえ、特にどのような目標にコミットするのかを明確に示し、それを組織の実質的な活動と結ぴつけていくことは制度的リーダーシップの1つの現れといえる。