2人の夫、寛と結太郎(加瀬亮)は
子どもの頃からの親友

 千代子と羽多子。夫を思いがけず早く亡くしたふたりが酒を酌み交わしながらしみじみ夫について語り合う。寛と結太郎(加瀬亮)は子どもの頃からの親友だった。言われてみれば、結太郎が寛に診療してもらっているとき、ふたりは気のおけない仲のようにも見えた。同世代で気心がしれているような感じがあった。

 しかも、奇しくも、結太郎と寛は似たような亡くなりかたをしている。懸命に働き、体の調子が悪くても、それを家族に気づかれないように振る舞い、無理がたたって急死である。

 結太郎は家族のため、寛は町の人たちのため、一生懸命働いた。その心意気はすばらしい。けれど、まだ働き盛りのときに急逝して、あとに残った人たちの悲しみやその後の生活をどうするのか。

 寛は千代子に、家と結婚したのではなく自分と結婚したのだと言うくらいだったのだから、千代子のためにも長生きしてほしかった。頑張るのなら、そこまで考えて頑張ってほしいと筆者は思う。

 その気持ちを残された妻たちははっきり表明した。さっさと死んでしまった夫に怒りながら(本心は怒っていない、ただただ悲しんでいるのだ)、酒を飲む。やりきれない残された女たち。

 無理は禁物。強がりの美学はかっこいいけれど、必ずしもいいことではない。なんてことは令和のいまだと当たり前の話だけれど、『あんぱん』の時代、日本人はみんな愚直に働いていたのだろう。

 羽多子を残して帰宅したのぶが外でぼんやりしていると、屋村(阿部サダヲ)が袋に入ったあんぱんを持って来た。嵩(北村匠海)がきっと何も食べていないだろうから渡してあげてくれと。毎度毎度何かというとあんぱんなのが気になるが、『あんぱん』なのだから仕方ない。屋村の人情である。

 その頃、嵩は、シーソーの広場で黄昏れていた。