ベストセラー『「悩まない人」の考え方』著者の木下勝寿氏が「マーカー引きまくり! 絶対読むべき一冊」と絶賛する本がある。『スタートアップ芸人 ―― お笑い芸人からニートになった僕が「仲間力」で年商146億円の会社をつくった話』だ。本連載では、起業家たちがこの本から何を学び、どう実践しているのかを掘り下げていく。今回登場するのは、スポーツテック企業「株式会社Focus」の代表取締役・宮口翔氏。宮口氏は『スタートアップ芸人』を読んで「営業の原点を思い出した」と語る。本書の中でも印象的な一節、「感動する提案書を書く前に大切なこと」から得た気づきとは?(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

THE MODEL型営業は、熱量が分散する
――『スタートアップ芸人』の中で「感動する提案書を書く前に大切なこと」に共感されたそうですね。どういった点が印象に残りましたか?
宮口翔(以下、宮口):読んでいて「やっぱりそこだよな」とすごく共感しました。
提案書って、結局“熱量”が一番出るところなんですよね。どれだけ本気で相手と向き合ったか、その温度がそのまま資料に出る。
もちろんリサーチも大事なんですけど、現場ではどうしても時間がない。打ち合わせもアポ取りもテレアポもある中で、つい既存のテンプレを使い回すことが多くなる。でも、それだとやっぱり伝えたい価値や想いが、相手に伝わらないんです。
「THE MODEL型営業」に足りないもの
――いま主流の「THE MODEL型営業」についてはどう感じていますか?
宮口:最近は営業の分業が当たり前になっていて、インサイドセールスがアポを取り、フィールドセールスが提案に行くという形が多いですよね。一見すると合理的ですが、僕はそこに“つながりの薄さ”を感じてしまうんです。
誰かから供給されたアポに対応するだけでは、「なぜこの相手に提案したいのか」という根本的なモチベーションを持ちづらい。
一方で、自分でアポを取り、自分で調べて、自分で提案を考えると、自然と相手への理解や想いが深まる。その積み重ねが、提案書にも現れると思うんです。
効率の良さが武器になる一方で、“誰のためにやるのか”という感覚が希薄になりやすい。僕はそこに違和感を覚えます。
「夢中になれるか」が提案の質を決める
――自ら営業プロセスのすべてを担うからこそ、熱が込められるということでしょうか。
宮口:そうですね。僕は「この会社に夢中になれるか」が、提案の質を決めると思っています。気になって調べて、どうすれば役に立てるかを考えて、自分の言葉で伝える。そうやって生まれた提案書には、ただの“情報”ではなく“空気感”が宿るんです。
逆に、用意されたアポに対してただつくる提案書は、どこか「やらされ仕事」で終わってしまう。でも、自分が心から「この会社と組みたい」と思って作る提案書は、相手にも必ず伝わります。実際、そういう提案ほど契約につながることが多いです。
――“熱”とは、単なる努力量ではなく、相手への敬意や関心の現れでもあると。
宮口:その通りです。営業って、テクニックや戦略ももちろん大事ですが、一番問われるのは「どれだけ相手と向き合えたか」なんですよね。
提案書は、その向き合った証を形にする手段にすぎません。「想いで勝負する」とは、つまり、“自分がどれだけ相手に惚れ込めるか”を問うことなんだと思います。
作業ではなく、想いで勝負する提案を
――営業現場では「効率」「数」「スピード」も求められますが、そこにジレンマは感じますか?
宮口:感じますね。実際、毎回すべてのプロセスを自分でやるのは難しい場面もあります。ただ、それでも「なぜこの提案をしたいのか」「自分はこの会社と何を生み出したいのか」という問いだけは、自分の中で明確に持っておくべきです。
その答えがあるだけで、提案の“質”がまったく変わってくる。スピードを重視する時代だからこそ、想いを込める意識がますます重要になってきていると思います。
――あらためて、『スタートアップ芸人』を読んで感じたこと、読者に伝えたいことがあれば教えてください。
宮口:『スタートアップ芸人』を読んで、営業という仕事の原点を改めて思い出しました。書かれているのは、派手なテクニックではありません。でも、現場で働く人ほど「そうそう、これだよな」と頷ける内容が詰まっている。
熱や想いって、やっぱり伝播するんですよ。自分が夢中になっていれば、その温度は必ず相手にも届く。だからこそ営業は、ただ“売る”だけの仕事じゃなく、“一緒に価値を生み出す仲間を見つける”仕事なんだと思います。
この本は、そうした本質を思い出させてくれる一冊です。
今、営業に悩んでいたり、仕事の意味を見失いかけている人には参考になると思います。
特別なスキルがなくても、心の持ちようひとつで、明日の提案は変えられる。そんな勇気をくれる本です。