と言うので、私ははじめて会った独身の人のうちへ行くわけにはいかない、ともったいつけたけれど、どうしても来てほしそうなので、つい行ってしまった。それが運のツキ。
彼のうち(つまり今は私のうち)には本がいっぱいあって、私はもともと本を読まない人なので、本を読む人をすぐ尊敬してしまう。私は昔から本をたくさん読むひ弱な人が好きだと言っていた。私の兄はそれを聞いて、それじゃ病院の図書室で本読んでる人を亭主にすればいい、と言った。
彼はひ弱な感じではなかったけれど、本を読む人らしかった。本棚に『血の晩餐』というすごく厚くて目につく本があったので、
「これ何ですか?」
ときいたら、それを棚から出して見せてくれた。それは大蘇芳年という人の描いた浮世絵を集めた本で、血だらけのコワイコワイ絵ばかりがのっていた。その絵からいつのまにかお化けの話になった。彼はお化けのレパートリィをいっぱい持っていて話をいっぱい聞かせてくれた。私はすっかり尊敬してしまった。なぜなら、私は小さいときからお化けの話が大好きだったから。
彼は、
「明日もお化けの話を聞きに来る?」
と言い、私はそのとおり次の日もそうしてしまった。私は週刊誌などのインタビューで結婚のきっかけについてきかれると、いつもこのお化けの話の話をするのだが、夫はそのことについては機嫌が悪い。お化けの話で女の子を恐がらせてひっかけるなんて古い手だし、いやらしいし、ひと聞きがよくない、と言うのだ。
そう言えば日本列島改造論がどんなに日本を悪くするかというような話も、確かにしてくれたのだけれど。
式をあげずパンツ3枚持って結婚
お祝いはスーパーの高級肉だった
私にはへんなクセがあって、それはボーイフレンドができるとすぐ知識を試してみたくなる。モッちゃんという人なんか、そのせいでシラガがいっぱい生えてしまった。たとえば、
「宦官て知ってる?」
ときいたり、
「零戦て知ってる?」
ときいたりするのだ。
これは私が知識がまるでないので、男の人には知識を持っててもらいたいと思う心からである。私は零戦というのは赤線とか青線みたいなものだと思っていたのだ。モッちゃんは私の質問にいつも答えられなくて困ったように、