こんな文面だった。私は主婦になった。もう1年半以上主婦をやっている。

 会う人が言う。

「レミちゃん、ご飯作れるの?」

 タレント時代の仲間、シャンソンの友達など、必ず言う。人は見かけによらないという言葉は私のためにあるのだ。私は毎日3度3度(うちは遅く起きるので本当は2度2度)ご飯を作っている。料理は高い材料じゃなくてベロの感覚だ。私はベロの感覚がすぐれているのだ。

 私の父は戦後、差別されていたミックスの子どもたちを守る「レミの会」をやっていたので、うちにはいつも居候がごろごろしていた。それで料理をいつもたくさん作らなければならない。私は小さい頃から母の手伝いを台所でやっていたのだった(編集部注/レミの父は、フランス文学者の平野威馬雄。自身がフランス系アメリカ人のミックスということもあって、終戦後8年してから、黒人や白人のミックスの子供たちの面倒を自宅で見はじめていた)。

 夫は先見の明があるのか、この人は料理がうまい、とはじめて会ったときに思ったのだそうだ。今までのボーイフレンドにはそれを見抜ける人が1人もいなかった。ラジオでバカでっかい声出している女が料理を作るなんて思えないのだろうか。

平野レミさんがキスの直前、思わず放ったまさかの「ひと言」そりゃ恋人もビックリだわ!『ド・レミの歌』(平野レミ、ポプラ社)

 夫は近所に仕事場を持っているので昼も食べに帰ってくる。私はたまには外で食べたいと思うので、2人で出かけることもある。自分で作ると、作ってる間におなかがいっぱいになってしまうような気がするので、たくさんは食べられないのだ。

 だから外で食べるのが私は好きなのだが、私がレストランで、「おいしいね」って言うと、夫は必ず、「うちで食う方がよっぽどうまい」と言うのだ。「どんな高い料理屋よりもうちの方がうまい」と言う。この言葉を聞くとうれしくもあり、ああまた当分は外で食事ができないなあ、と思って悲しくもあるのだ。