この人はおじいさんとは関係ないのだが、屋敷を手に入れたときに、この家に関係ある資料を調べて、博物館で写真をコピーしてもらったらしい。私はその写真がほしかったので、

「プリーズ コピー プリーズ コピー」

 と言ったけれど、どうも通じなかったようだ。

ロスチャイルドが住んだ家に
最初に住んでいたのが祖父だった

 それからこの人に、

「あなたの前は、この家は誰が持っていたのですか」

 と聞いたら、

「ロスチャイルド」

 とさりげなく言う。一同、

「おおっ」

 と言ったけど、私とミカ(編集部注/平野レミの妹)はロスチャイルドなんて名前は初めて聞いたので、そのときは何も感じなかった。でも日本に帰ってこの話をして、ロスチャイルドの名前を出すとやっぱり一同、

「おお!」

 と言う。私はロスチャイルドがどのくらい金持ちか知らないけれど、みんなが、「おお」と言うのだからよっぽど金持ちなのだろう。そのロスチャイルドが住んだ家に、最初に住んだのが私のおじいさんなのだから、おじいさんはやっぱり父の言うとおりの金持ちだったみたいだ。

 父は私に、おじいさんはストラディバリウスを目覚ましがわりに弾いてくれたとか、その楽器でパデレフスキー(編集部注/ポーランドの著名なピアニスト)やサンサーンス(編集部注/フランスの作詞家、ビアニスト)と共演したとか、ハイフェッツ(ヴァイオリニストの王と呼ばれるロシア出身の演奏家)にその楽器を貸したことがあるとか、コックを世界中に連れて歩いておいしいものを覚えさせて、そのコックを横浜の自分のうちにおいていたとか、狩野探幽の絵やら、ベートーベンが書いた原譜を持っていたとか、そんな話をよくしてくれたが、私は、「またお父ちゃんデタラメ言って」といつも思っていたのだ。それがこの屋敷を見たら、なるほどとわかったのだった。

 でも父の代になったら、この財産は何も受けつがれていない。おじいさんがアメリカで死んだきり、父が向こうへ行かないものだから、長男なのに何も相続しなかった。日本にあった財産も、父が若いころ詩ばっかり書いていて全部売っぱらっちゃった