市が運営するサン・マテオの日本庭園は
元々は祖父がつくったものだった

 父はまったく欲というものがなく、金持ちは大嫌いだ、と昔から言う。

 サン・マテオに立派な日本庭園がある。それはブイおじいさんが日本から庭師を連れて行ってつくったものだ。これは今、サン・マテオの市のものになっていて、入園料をとって見せているのだ。今度の旅でそこへ行ったときは、時間がちょっと遅くて見られなかった。私は父に、

「管理人に、これをつくった人の息子だから見せてくださいと頼めばいい」

 と言ったが、父は、

「いいよいいよ面倒くさい」

 と、塀のふし穴から滝の流れる庭園をのぞいて、

「ふーん」

 と言っていた。私はその後ろ姿を見て、わびしくなってしまった。

 おじいさんの財産の一部が、今でもアメリカには目の前にある。それがどうにもならないから私は口惜しくてじれったくてしょうがない。世が世なら私は大令嬢だったのに。父にそんな話をすると、父は、

「もういいよ、そんなこと。今が幸せならいいじゃないか。お前は欲ばりだ」

平野レミさん「世が世なら私は大令嬢」大金持ちの祖父とロスチャイルドの意外な接点とは?『ド・レミの歌』(平野レミ、ポプラ社)

 と言う。でも日本庭園だけでもサン・マテオの市と交渉すれば何とかなるんじゃないか、と言ったりするのだが、父は、

「考えただけでもくたびれちゃう」

 と言うのだ。

 夫も、

「そんな大令嬢じゃ近づけない」

 と言うから、やっぱり今の私でよかったのかなあ。