「メンタル第一、仕事は第二でいい、というメンタルに関する章が刺さった」「問題児をどうするかなどチームマネジメントが参考になった」……。こんな声が続々と寄せられ、ロングセラーとなっているのが、『佐久間宣行のずるい仕事術』だ。テレビプロデューサーであり演出家、作家、ラジオパーソナリティなど、多方面で活躍する佐久間宣行氏が、独立して初めてまとめた1冊。やりたいことをやってきた、という佐久間氏が語る「誰とも戦わずに抜きん出る方法」とは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

ずるい仕事術Photo: Adobe Stock

「たかが仕事」で「深刻」になるな

 入社したばかりの人、リーダーを命じられて責任が重くなった人、仕事が楽しめない人……。ロングセラーになっているのは、幅広い読者に支持されているからだろう。

「はじめに」では、「入社当時の絶望から20年以上かけて僕が身につけた作戦の数々が入っています」と記されている。

 テレビ東京勤務時代、番組プロデューサーとして「ゴットタン」「あちこちオードリー」などヒット番組を多数制作。フリーランスになって以降も、多方面で活躍している佐久間氏だが、意外にも「自分は芸能界もテレビ界も苦手っぽい」とすぐに気づいたという。

 そんな彼が「やりたいこと」を実現していくための方法として編み出したのが、もっとずるくなること、だった。

 展開されていくのは、誰でもできるのに案外やっている人は少ない「いい仕事」をするための62のヒント。仕事術編、人間関係編、チーム編、マネジメント編、企画術編、メンタル編の6章に、「佐久間宣行の鞄の中身」などファン垂涎の6つのコラムから構成されている。

 刊行後、特に反響が大きかったのが、「メンタル」に関する第6章だという。仕事をする上で、どう心を整えていくか。悩んでいる人は、やはり少なくないということだろう。

 そして思わずハッとするアドバイスから、それは始まる。“「メンタル」第一、「仕事」は第二”だ。

心を壊してまでやるべき仕事なんてどこにもない。
どんなに大きな仕事でも、どれだけ意義ある仕事でも、心を差し出すまでの価値はない。だって、仕事なんて、「たかが仕事」なのだから。
死守すべきは仕事よりもメンタル、
「真剣」にはなっても、「深刻」になってはいけない。(P.194)

 次々に押し寄せる仕事。成長できているのかという不安。周囲からのプレッシャー……。ともすれば、心が仕事の苦しみでいっぱいになってしまうこともある。しかし、佐久間氏は言うのだ。「たかが仕事」ではないか、と。

 ここまではっきりと言ってくれる人は、実は多くはないかもしれない。

嫌なことからは「逃げるが勝ち」

 テレビ局の仕事、加えて番組制作というと、勝手な想像だがこんなイメージがある。時間が不規則で長時間労働。びっくりするような無理難題も飛んでくる。できなければ厳しい叱咤が飛び、常に忙しいだけにどこにも逃げ場はない……。

 そんな苦しい仕事の時間を過ごしてきたからこそ、佐久間氏には見えてきたことがあったのかもしれない。

 大切なのは「なにが続くと自分の心は折れるのか」を把握すること。たとえば、
・残業が常態化するとつらい
・頭ごなしに怒鳴りつけられると心が削られる
・下品な冗談に付き合わされるのは生理的に無理
 こんなふうに人それぞれ、たくさんの「無理スイッチ」があると思う。
 そのスイッチは、絶対、人に触らせてはいけない。(P.195)

「いや、でも仕事なんだからしょうがない」と考えるなということ。「これくらい我慢しなきゃ」「ここは無理をしてでも」「休んだらみんなに迷惑が」と自分と仕事の優先順位を決して逆転させないことが大切だと佐久間氏は記す。

 そして、メンタルを保つ最良の方法について触れている。

僕は嫌なことからは「逃げるが勝ち」だと思っている。
僕の人生も、ストレスから逃げ続けた20年だった。
愚痴を聞きたくないから、職場の飲み会には行かないと決めた。
「これ以上がんばったらマズイ」と感じたら、ちゃんとサボってフェスにも行った。
こうして自分の心を守ったからこそ、ほんとうに集中すべき仕事に没頭できた。(P.196)

 この文章を書いている私は、3000人を超える人たちへの取材経験があるが、成功している人、うまくいっている人が、どんな逆境にも耐えられるような鋼のメンタルを持っていたのかというと、そういうわけではない。むしろ共通しているのは、自分の弱さに気づいていることだ。

 人間は強い生き物ではない。それを自覚していれば、最初からそう対処するようになる。無理はしない。限界を知る。自分をコントロールするようになる。うまくいく人は、自分の喜ばせ方がうまいのだ。

期限を区切ることで、毎日が変わる

「メンタル」の章では、9つのヒントが並ぶ。いずれも、ただ単に読者を慰め、元気づけるだけの内容では終わらない。では、どうすればいいか、方法論が語られていくのだ。例えば、こんな項目。“期限を区切れば「無敵」になれる”。

仕事の先は見えない、つらい。
いまの会社にいつづけていいのかわからない。
もう、辞めるしかないのか……。(中略)
僕がおすすめしているのは、期限を決めてゴールを設定し、そこまでは全力で努力してみるということだ。(P.201)

 会社を辞めるかどうか悩む。佐久間氏も通ってきた道だという。だが多くの人が、「どうしよう」とブレーキペダルを踏んでしまう。いわば、思考を停止してしまうのではないか。

 そうではなく、「ブレーキから足を離し、アクセルを踏み込んでみよ」と佐久間氏は言うのだ。

 そのために期限を決める。それは、100%の力で打ち込むため。

いつまで走ればいいかわからないマラソンは、途中で力を抜いてしまう。
でも、ゴールまで5キロ、10キロとわかっていれば、ペース配分しつつ全力で走り抜けられる。だからまずは、「いつまでに進退を決めるか」を決めるところからはじめてみよう。(P.202)

「3年目までにあの仕事にアサインされなかったら諦めて異動願いを出す」
「あと1年この仕事をやっておもしろくなかったら辞める」

 そんなふうにゴールを決めておくのだ。その上で、自己分析をする。

「既存のルート営業は強いが、新規の提案が弱い」
「企画は得意だが、社内で顔が売れていない」

 それを踏まえて、どのスキルが伸びれば、やりたい仕事にアサインされるか。辞めても他社に行ける人になれるかを考えてみる。

 なるほど、こんなふうに考えれば、悩んでいる時間も前向きに仕事に取り組むことができる。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『メモ活』(三笠書房)、『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。