勝’s Insight:アカデミアとビジネスの実践、それぞれのアプローチから同じ答えにたどり着いた「CDOに必要とされる力」
<インタビューを振り返って>
岩嵜さんとの対話の中には、印象的なキーワードが幾つかあった。特に、これからのCDO像を考える上で大きなヒントとなりそうなのが、「リフレーミング」と「メディエイター」という言葉だった。
「リフレーミング」とは、既存の事業のフレーム(枠組み)を再定義して、成長につながるフレームを新たに作ることを意味する。その作業においてデザインが大いに力を発揮するというのが岩嵜さんの見立てである。
私がその意見に強く共感するのは、私自身がCDOとしての実践の中でその取り組みの重要性を肌身で感じ、またこの連載の取材を通じてそういった事例を実際に見聞きしてきたからだ。会社の新しいビジョンを考案する。組織を新たにデザインし直す。プロジェクトの目的を定義して立ち上げる――。そういった取り組みにおいてデザイナーが重要な役割を果たしているケースは間違いなく増えている。
ポイントは、リフレーミングにおけるデザイナーの仕事は、ビジョンの「文言」、組織の「形」、プロジェクトの「体制」といったものを作るだけではないということだ。経営層との対話を基に企業の成長のイメージを描き、必要とされる新しいフレームの本質を捉え、それに磨きをかけて具体的なフレームを作る。それがリフレーミングという作業におけるデザイナーの役割である。
一方の「メディエイター」とは、異なる部門や事業をつなぐ役割のことだが、これは岩嵜さんがその後に語っている「求心力と遠心力」という言葉と組み合わせるとより理解しやすくなる。ここで言う求心力とは、私の言葉で説明すれば、メディエイターたるデザイナーが生み出すデザインの「質」や「深み」のことである。デザイナーがいかに優れた人格者であり、いかに卓越した対話スキルを持っていたとしても、その人が生み出すアウトプットに人の心を捉える力がなければ、「つなぐ」という役割をその人に委ねたいとは誰も思わないだろう。
一方の遠心力とは、人や組織を巻き込みながら、発想やアイデアを広げていく力を意味すると私は捉えている。会社全体を俯瞰し、自分のデザイナーとしてのスキルをさまざまな領域に及ぼし、経営とデザインのつながりをより豊かにしていく力である。私の言葉で言えば、デザイナーの「幅」、もしくは視座の「高さ」ということになる。
岩嵜さんの言葉は、私が自分の実践や取材の中で得たものを端的かつ的確に説明してくれるものだった。アカデミアとビジネスの実践者の連携は、今後ますます必要になるだろう。
(第12回に続く)
