良いデザイナーをたくさん集めても機能しない
デザインの力を最大化するために必要なこととは
勝沼 企業活動にデザインの力を積極的に活用するには、優秀なデザイン人材を集め、事業に寄与するデザイン組織を組成する必要があります。しかし、その投資判断は難しい。
岩嵜 欧米の金融系企業などでは、数百人規模のデザイン人材を社内で育成しているケースもありますが、全ての企業がまねできることではありません。最近の日本企業の中には、海外のデザインファームを買収してデザイン部門を拡張する動きが見られます。M&A（企業の合併・買収）で優秀なデザイン組織と人材を獲得するのは、一つの有効な方法だと思います。
勝沼 デザイン組織に求められる役割は企業によって異なりますが、あらゆる企業に共通する要素もあるように思います。企業内でデザイン組織が果たすべき共通する役割とはどのようなものだと思われますか。
JUN KATSUNUMA多摩美術大学卒業。NECデザイン、ソニー、自身のクリエイティブスタジオにてプロダクトデザインを中心に、コミュニケーション、ブランディングなど、幅広くデザイン活動を行う。国内外デザイン賞受賞多数。デザイン賞審査員も務める。2020年 NEC入社、デザイン本部長として全社デザイン統括を行う。2022年度よりコーポレートエグゼクティブとして、経営企画部門に位置付けられた全社のデザイン、ブランド、コミュニケーション機能を統括。2023年より現職。
Photo by YUMIKO ASAKURA
岩嵜 マッキンゼー・アンド・カンパニーが数年前に、「デザイン組織のリデザイン（Redesigning the design department）」という大変シャープな論考を発表しました。企業におけるデザイン組織は閉じられた空間にいるべきではない。いろんな部門に染み出していって、部門と部門、事業と事業をつなぐ役割を果たすべきである――。それが、その論考で語られていた主要な論点でした。
その「つなぐ役割」を示す言葉が「メディエイター」です。デザイナーがメディエイターになるべきであるという考え方は、近年の組織論の課題認識からも注目すべき点です。従来の企業組織は「ツリー型」の構造になっていました。それに対して、最近は「ネットワーク型」が企業組織のあるべき姿であるという考え方が広まっています。「ティール組織」や「水平型組織」もほぼ同じ意味です。上も下もなく、全ての組織と人が水平的に横につながっていく。そんなイメージです。
そのようなネットワーク型、水平型組織において求められるのが、部門と部門、事業と事業、人と人をつなぐ役割、すなわちメディエイターです。それが企業におけるデザイナーの重要な役割であり、既にそのような動きは起こり始めています。例えば、デザイン専門組織でスキルを磨いたデザイナーが事業部門に入って、商品開発や消費者とのコミュニケーションにデザインの力を活用していくといった動きです。
勝沼 デザイナーがメディエイターになるためには、個々のデザイナーのスキルがとても重要ですよね。僕自身もそうでしたが、デザイナーとして専門的スキルを突き詰める経験がないと、デザインをさまざまな領域に応用することもできないし、異なる要素をつなぐこともできないと思います。
岩嵜 同感です。「求心力」と「遠心力」という言葉で表現するのが分かりやすいかもしれません。個々のデザイナーがデザイン専門組織でエッジの利いたスキルを磨く、つまり求心力を高める取り組みが一方にあり、デザインの力を広範な事業や経営に波及させていく、つまり遠心力を発揮する取り組みがもう一方にある。企業におけるこれからのデザイン活動には、その両方の取り組みが求められるのではないでしょうか。
