当連載ではデザインを経営に取り入れ、企業価値につなげる存在として、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)の役割について考えてきた。今回から、企業のデザインリーダー、経営者、識者へのインタビューによって、その役割を多角的な視点で捉え、その解像度を高めていく。
第1回目はデザイン経営宣言の策定に中心的に関わったTakramの田川欣哉氏に、CDOが企業に定着するために、デザイン側としてどのような取り組みが求められるか、話を聞いた。
経営会議に参加する「専門家」ではなく
CEOの「分身」としてのCDO
勝沼 田川さんは2018年に経済産業省などから発表された〈「デザイン経営」宣言〉の策定に携わられました。日本におけるデザイン経営の現在をどのようにご覧になっていますか。
田川 〈「デザイン経営」宣言〉の議論を重ねていた頃は、デザインを統括するCクラスのポジションを設けている企業はほぼ皆無でした。しかし、宣言を発表した後の6年間で、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)をはじめとするデザインエグゼクティブを設置し、デザイン経営に着手している企業は着実に増えています。スタートアップから始まった動きが、テック系をはじめとする大手企業にも着実に波及してきました。
勝沼 国が発表した「宣言」として、順調に定着してきているといえそうですね。
田川 CDOの普及状況を考える際には、先行して設置が進んだCTO(最高技術責任者)の歩みが参考になると考えています。CTOというポジションが日本企業で設置され始めたのは30年ほど前でした。最初の頃は、「なぜ役員クラスにエンジニアが必要なのか」という見方も少なくなかったと思います。しかし現在では、CTOを設置する上場企業は大幅に増加し多数派になっていて、CTOのコミュニティーも盛んです。CTOと同じレベルでCDOが定着するにはもうしばらくかかると思いますが、15年後くらいには数段普及が進んでいるのではないかと思います。
勝沼 〈「デザイン経営」宣言〉の中で、とりわけ重要なポイントはどこにあったとお考えですか。
田川 CEO(最高経営責任者)とダイレクトに会話ができるデザイントップのポジションをつくること──。それが重要な視点だったと思います。経営が複雑化し、高度化していく中で、CEOを直接的に支えるスペシャリスト的経営人材の集団が必要になった。それがCFO(最高財務責任者)やCTOをはじめとするCチームだと思います。そして、社会のデジタル化の進行に歩調を合わせる形で、顧客体験、ブランド、デザインなどが、Cチームの扱う話題に入ってきたのだと思います。
企業のCクラスの人材は、CEOの「分身」であると思います。会社の規模が大きくなり、経営が複雑になっていくと、1人のCEOが経営に必要な全ての知識を備えることは不可能になります。そこで、各領域にCEOの分身を置くことが求められるようになるわけです。
分身の集合体であるCチームは、いわば集合人格を持っていて、それぞれの分身がCEOの考え方や思考パターンを共有し、それに基づいてさまざまな判断をしていく。CDOもCチームを構成する分身の1人と考えるのが良いと思います。