形を超えて事業を描く、ユニクロも実践する「拡張されたデザイン」で企業を持続的な成長に導く方法――武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科教授・岩嵜博論氏インタビュー

モノに意匠を施すこと以外の「デザイナーの力」が注目されている。特に、製品開発や事業設計の上流に、デザイン行為を組み込み、これまでにない視点を生み出そうとするケースが増えている。武蔵野美術大学でビジネスデザインの研究を進める岩嵜博論教授は、ユニクロの持続的な成長を支えた、デザイナーの「ある役割」に注目している。デザイン経営を推進するCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)に必要な資質を考えるヒントについて、同教授に話を聞いた。

「デザイン経営」に表れる日本と欧米の
デザインに対する考え方の違いとは

勝沼 企業におけるデザインの役割が拡張しているといわれています。アカデミアとして、この動きはどのように捉えられていますか。

岩嵜 確かに、デザインに求められることが広がっていると思います。ただ、それは日本において、デザインが狭い範囲で捉えられていたことが背景にあります。つまり、デザインとはものの色や形を作り出す行為である、そんな認識です。

 もともとデザインとは、行為を設計する、概念を生み出す、といったことも含んでおり、欧米ではそれが自然とビジネスに取り込まれています。今日本の企業で起こっていることは、デザインが拡張したという見方もできますが、デザイン本来の役割に気付き始めた表れともいえるでしょう。

勝沼 経済産業省と特許庁が2018年に作った〈「デザイン経営」宣言〉が、デザインの意味が幅広く捉えられるきっかけになりました。

岩嵜 〈「デザイン経営」宣言〉には、デザインを「意匠」と捉える考え方と「拡張したデザイン」の二つの側面があるというのが僕の見立てです。同宣言では、ブランディングのためのデザインとイノベーションのためのデザインが必要であるとされています。ここでいうブランディングのためのデザインとは、すなわち「意匠」のことです。一方、イノベーションのためのデザインは「拡張したデザイン」を意味しています。その二つが明確に分かれている点に欧米とのギャップがまだあるように思います。

勝沼 実際の企業活動では、組織づくりやコミュニケーション設計にデザインの力を生かしているケース、つまり積極的に「拡張したデザイン」を活用している企業が増えているように思います。

岩嵜 おっしゃる通りです。例えば、UI/UXデザインという考え方は、ビジネスの世界には広く浸透しています。「デザイン=意匠」という従来の思考と、「拡張したデザイン」という新しい思考をどう統合していくか。それがデザイン面における産業界の課題といえるかもしれません。

形を超えて事業を描く、ユニクロも実践する「拡張されたデザイン」で企業を持続的な成長に導く方法――武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科教授・岩嵜博論氏インタビューPhoto by YUMIKO ASAKURA