これほど影響力があり、誤解されている学術論文はほとんどない。デービッド・オーター、デービッド・ドーン、ゴードン・ハンソンの3氏が書いた論文のことだ。政治家や識者はしばしばこの著者たちの論文を利用し、中国の台頭によって1999年から2011年にかけて中国からの輸入が急増したため、米国内の雇用が最大240万人分失われたと主張している。ただこの研究は、特定地域の労働市場で製造業の雇用に起きたことという狭い範囲に対象を絞っていて、米国全体に言及しているわけではない。中国からの輸入品との激しい競争にさらされた米国の地域社会で、製造業の雇用急減と局地的な失業増が起きたのは事実だ。重要なのは、職を追われた労働者のほとんどが、新たな仕事を求めて動くのではなく、そのままの状態にとどまったことだ。この学術論文は、米国の工業の中心的地域で実際に起きた痛みを浮かび上がらせたため、共感を呼んだのは不思議ではない。しかし、「チャイナ・ショック」を全米の雇用に関する決定的要因として扱うのは誤りだ。
【寄稿】米国「チャイナ・ショック」の真相
中国からの安価な輸入品、米国の雇用への打撃はほぼ地域限定で一時的 全体の雇用や消費者の生活にはプラス
有料会員限定
あなたにおすすめ