相手を不快にさせない人は「断る回数」を減らしている
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

参加したくない飲み会。二流の人は「断る」、では一流は?Photo: Adobe Stock

「断るのが苦手」なのは当たり前

ビジネス書や自己啓発書を読んでいると、「断っても嫌われないから、やりたくない仕事はどんどん断ろう。仮に嫌われたっていいじゃないか」みたいな言説を見かけることがありますが、普通の人がこれを実践するのは至難の業です。

大多数の職場において、「嫌われてもいいから、どんどん断ろう」とやっていたら、かなりの確率でその人は居場所を失います。「私には関係ない仕事だし、ストレスになるからやりたくない」みたいに断る人ばかりだったら、組織として成立しないからです。

「嫌われてもいいから断ろう」なんて、そう簡単に割りきれる問題ではありません。

編集者もそうです。社内の人間関係が悪化したら企画が通りにくくなるし、著者から嫌われたら出版できない。ライター、デザイナー、イラストレーター、カメラマンといった外部スタッフから敬遠されたら良質なアウトプットが出てこない。「他者のパフォーマンスを上げること」と「成果を出すこと」がほぼイコールのような仕事なんです。

「嫌われてもいいから断ろう」なんて戦略は、よほどのポジションを築いた一部の成功者にしか使えません。ぼくたち一般のビジネスパーソンにとっては、いかに嫌われないように断るかは極めて大事な問題なのです。

「断らなければならない状況」をつくらないことが大切

断るのが好きな人というのは、まずいないでしょう。多かれ少なかれ、断ることにはエネルギーを使い、心理的な負担を感じるものです。

それに、断られてうれしい人もいません。当たり前ですね。なんらかの期待をしてお願いしているのですから。

そう考えると、断り方以前にポイントになるのは、「断らなくて済む状況をいかにつくるか」といえます。

孫子は「百戦百勝は善の善なる者に非ず」と言っています。「戦わずして勝つのが最善である」という意味です。これを断り方に当てはめるなら、「断らずして話が進むのが最善である」となります。

では、具体的にすべきことはなにか?
まず有効なのが、相手が「この人には、このお願いは適切ではないな」と事前に判断できる情報を、日頃から発信しておくこと。

たとえば、次のイメージです。

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● 「今週は新規プロジェクトの立ち上げ期間なので、集中的に取り組んでいます」と会議で明言する

● 仕事中は集中して作業し、席を外す回数を減らす。デスク周りには進行中の資料を整然と置き、多忙な状況が自然と伝わるようにする

● 「退勤後は実家の仕事を手伝っているんです」と、自然な会話のなかで状況を伝えておく
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こうした言語的・非言語的な「情報発信」をしておくことで無理な依頼を減らせるはずです。それにこの状況を周囲が理解していれば、たとえ断ったとしても納得してもらいやすいと思います。

庄子 錬(しょうじ・れん)
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。

※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子 錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。