トー横に集まる若者たちの
希薄な関係と暴力性

 2021年11月末、眠らない歌舞伎町のネオンが消え、人の姿が減る午前8時ごろ。10階建て雑居ビルの屋上で、ひとりの男性が若者たちに囲まれていた。

 中心にいたのは互いを「兄弟」と呼び合っていたアオイ(26)とノボル(28)。「助けてほしい」とすがる男性をかまわず蹴り続けた。男性は肋骨30カ所以上を骨折し、臓器も損傷。そのまま放置され、亡くなった。

 男性と若者らの接点が「トー横」だった。歌舞伎町の中心にある新宿東宝ビルの周辺を指す。虐待やいじめなどの事情を抱え、家庭や学校に居場所のない少年少女らがSNSを通じて集まっていた。

 男性は彼らの悩み相談に乗り、食事をともにすることもあった。「トー横のお父さん」として知られ、定期的に出入りしていたアオイとノボルとも面識があった。

 だが、理不尽な暴力は突如噴出する。傷害致死罪に問われた2人の公判で検察側が明らかにしたのは、ささいな理由から暴行がエスカレートしていく様だった。

「オレの名前を勝手に出した」「迷惑かけんなや」――。

 事件当日、不良少年グループとトラブルになった男性は、トー横の武闘派だったアオイとノボルに助けを求めた。駆け付けた2人は、解決のため勝手に名前を出されたことを理由に逆に暴行を主導する側に回った。

「名前を使われることが(暴行の)正当な理由になると思っているのか」。公判で問いただされると、アオイは短く「はい」と答えた。理由については多くを語らないまま実刑判決を言い渡され、審理は終わった。

 事件が起きたとき、アオイとノボルは出会って1カ月もたっていなかったとされる。それぞれ相手の本名も出身地も知らなかった。

 ノボルはアオイの公判で「彼がついてきてくれるなら今後も関わりたい」と呼びかけたが、アオイは「もう関係を続けないと思う」と素っ気なかった。

トー横に未成年が
集まったのは想定外だった

「何の目的で暴行されなければならなかったのか、納得できる部分は何一つなかった」。公判に参加した被害男性の兄は、希薄な関係の若者たちがまとう暴力性を理解できずにいる。

「弟は情に厚く、人が寄ってくるタイプだった。その人柄につけこんで、理由のないいじめのターゲットにしていただけなか」。

 釈然としない気持ちを抱え、今も現場となった雑居ビルに足を運ぶ。