違法風俗店やカジノ、悪質な客引きが横行していた新宿・歌舞伎町。

 2000年代前半に「浄化作戦」が展開され、新宿区はその後、地元商店街などと連携して大衆文化や娯楽の拠点に生まれ変わらせる方針を掲げた。それに沿って、東宝は新宿コマ劇場跡地に約230億円を投じ、2015年に新宿東宝ビルを開業した。

 ゴジラの頭部がのぞく真新しい高層ビルは、国内外から多くの観光客を呼び込む街の新たなシンボルとなった。想定外だったのは引き寄せられた中に未成年も多数含まれていたことだろう。

 区によると、2018年ごろから「トー横キッズ」と呼ばれる子どもたちが集まりだした。いつしか未成年飲酒や薬の過剰摂取、子どもを狙った性犯罪などが横行する場として知られるようになる。

 区の担当者は取材に「歌舞伎町が悩み多き青少年の居場所としてSNS上で有名になるとは思わなかった」と漏らした。

 計画通りに進まないことはよくあるが、難しいのは若者や子どもがSNSをたどって集まる流れを止められないことだった。内閣府の2019年度調査で、13~29歳の男女1万人の約5%が「ほっとできる場所がどこにもない」と回答。困ったときに「どこにも助けてくれる人がいない」という回答も10%を超えた。

 警察は摘発や保護を進めているが、日常に居場所がなければ彼らはまた戻ってくるという。

 2023年4月に地上48階建ての「東急歌舞伎町タワー」が開業し、周辺はにぎわう一方だ。新型コロナウイルス禍前の喧噪を取り戻しつつある歓楽街にはキッズだけでなく「トー横ミドル」や「トー横シニア」と呼ばれ始めた中高年層の姿も見える。

「光のタワーの演出が歌舞伎町に新たな彩りをもたらします」。

 施工会社が完成時に高らかにうたった再開発。強すぎる光が寄る辺なき若者らを引き付け、足元に暗い影を落としたのだろうか。

書影『まさか私がクビですか?なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』『まさか私がクビですか?なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日本経済新聞「揺れた天秤」取材班、日経BP)