男を遠ざける必要があると思った男性は「次の駅でおりて頭でも冷やしなさい」と忠告。男は渋々応じたが、駅に着くとホームから「おりてこい」などと叫びだした。男性は車内から、「その場で酔いを覚ますように」と言った。
視線を外したその瞬間、男性は左足に衝撃を感じて倒れ込んだ。男がホームから電車に走り込み、男性の左足を蹴ったのだ。
ホームに逃げていった男を追いかけ、もみ合いの末に抑え込んで駅係員に警察を呼ぶよう依頼した。その後、病院に搬送された男性はすねの骨折などと診断され、約3カ月欠勤した。
男性は勤務先にも相談の上、ケガは通勤災害に当たるとして療養や休業の補償などを労働基準監督署に申請した。ところが2020年7月、労基署は不支給とした。不服を申し立てても退けられ、男性は2021年9月に不支給の取り消しを求めて提訴した。
「通勤災害」が
認められる条件とは?
通勤災害の認定には条件がある。
例えば、通勤経路を外れて寄り道などをした場合、その行為が「日常生活に必要で最小限度」でなければ、その後の経路は法律上の「通勤」とはみなされない。負傷しても補償対象外となる。
ケガと通勤との因果関係も必要で「通勤に通常伴う危険が具体化した」と言えることが求められる。
訴訟では(1)男性は法律上の「通勤」中に負傷したと言えるか(2)ケガが「通勤に通常伴う危険が具体化した」ものと認められるか――が争われた。
男性側は、通勤中の電車で迷惑行為に遭遇することは日常的な出来事で、男に対する注意も必要最低限度のものだったと主張。「通勤による負傷に該当し、通勤災害と認めなかった処分は取り消されるべきだ」と訴えた。
一方の国側は、たまたま乗り合わせた女性の安全確保が目的で、通勤を続ける上での障害を排除するなど通勤を行うのに不可欠な行為だったとは言いがたいと反論。