20年以上コンサルティング業界で培った経営戦略を人生に応用した『人生の経営戦略』の著者・山口周氏と、SNSやネットメディアを中心に絶大な人気を誇る連続起業家のけんすう氏。初対面ながら意気投合した両氏が、「自分の人生を自分で考えて生きるための思考法」を熱く語り合った(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)。

人生は「4つの資本」の積み重ね

山口周(以下、山口) けんすうさんとは、実は初対面なんですよね。今回お話しさせていただくきっかけになったのが、僕の『人生の経営戦略』について、けんすうさんがXで面白いと言ってくださったこと。

 このとき引用してくださったのが、「時間資本がウェルビーイングにつながる」という部分なのですが、改めてこのフレームについてどのように思われたのか教えてください。

古川健介(以下、けんすう) 若い人たちから相談を受けるときに、僕自身も似たような話をしていたんです。資本には「人的資本」と「社会資本」と「金融資本」があるけれど、最初から金融資本を追い求めようとすると、割とすぐに稼げなくなってしまうので、ちゃんと人的資本や社会資本を取りにいきましょう、と。

 ただ、順番的に、まずは「時間資本」があるということ。それを人的資本に変えて、そこから社会資本をゲットして、さらに金融資本にしていくというプロセスを僕は説明できていなかった。

 また、それらが最終的にはウェルビーイングにつながるという部分も重要で、これがないとゴールが金融資本になってしまう。僕ではうまく説明できていなかったことが、たった一つの図で示されていて、これはすごいなと思いました。

人生というプロジェクトの原理人生というゲームを「1枚の図」で構造化

山口 人生を「資本」の積み重ねで考えるのは、まだ多くの人にとっては馴染みがないのかもしれませんね。

けんすう 特に若手のビジネスパーソンにとっては、それが課題だと思っています。フローのお金だけを意識していると、「時給換算して良い仕事を選ぶ」みたいなことになりかねないのですが、それではなかなか資本は貯まっていかないですよね。

人生は80歳まで続く「超長期プロジェクト」

山口 僕は『人生の経営戦略』中で「人生は超長期のプロジェクト」だと書いています。人生を80歳ぐらいまで続く長期のゲームとして捉えると、それぞれ異なるステージでどのように動くのかを考えないと厳しい。けんすうさんの『物語思考』でも、ほぼ同じことを書かれていますね。

けんすう おっしゃるとおりです。

山口 若いうちは、何かひとつのことに集中して活躍するのがいいと言われがちだけれど、けんすうさんは、20代のテーマは「バラエティ」だとおっしゃる。僕もまったく同感です。

 つまり、20代のうちはとにかくいろいろやってみる。そこから、スキルの深さや専門性をつくって戦うのが30代。その結果としての、その人らしいユニークな成果で評価されるようになるのが40代。そして「あの人と仕事したい」と、いろんな人から言われるようになるのが50代……というイメージです。

けんすう そうした人生設計の考え方が、山口さんの本ではとても構造的に解説されていますよね。一方、僕としては構造的な理解が苦手な人も多いだろうという感覚があって、ストーリーで理解するという形にしました。書き方は違うけれど、言いたいことの根本はよく似ていると思います。

あなたは人生という舞台の主演・監督・脚本家

山口 けんすうさんは、なぜ『物語思考』を書こうと思ったんですか?

けんすう いろんな人と話すうちに、ほとんどの人が「行動」に結びつけることができないと気づいたからです。

 行動できない理由は「今の自分」に囚われてしまっているからではないか。今の自分のやり方なんて、言ってしまえば「慣れ」であって、そんなに大事にする必要はないのに、「自分はこうだから」という決めつけによって動けない人が多い。そこを突破できるようなものを書けるといいなという思いはありました。

山口 僕がかねて最も歯がゆいと思っていたし、こうなるといいなと思って『人生の経営戦略』で書いたのは、「皆さんの人生は皆さんで選択できるんですよ」ということ。

 経営においてはオプション(選択肢)を持っているということがすごく重要なのですが、個人もみんなオプションを持っているのに、なぜか勝手にその幅を狭めています。

 僕がよくワークショップなどで言うのは、あなたの人生という舞台において、あなたは主演であり監督であり脚本家です、と。自分のキャラをどのように設定して、どのような登場人物を周りに登場させて、どのように物語を進めるかは全部自分で決められるのに、なぜ全て他責にしてしまうのか。

けんすう 僕の本でも「頭の枷を外しましょう」ということを書いたんですが、普通の会社員の方に「どうなりたいですか」と聞くと、やはり「年収1000万」みたいな答えが返ってくるんですよ。

「なんの制限もなかったとしたらどうですか」と聞いても、やはり同じような答えになるので、「年収1億よりも1000万のほうがいいんですか?」と聞くと「そうではない」と言う。

 結局、1000万以上が想像できていないので、そこにも選択肢があるということに気づきにくいのだろうなと思いました。

不確実性を「物語の醍醐味」として楽しめ

山口 僕は、いったん人生をロールプレイングゲーム(RPG)として考えましょうと提言しています。

 RPGに勝ち負けはありません。あるゴールに向かって自分の旅を続けるだけです。主人公がいろいろ挑戦するなかで、失敗したり成功したりして成長する過程そのものが物語になる。ずっとスタートポイントの村にいて、毎日その村で寝起きしているだけではRPGにならないわけです。

 そこには当然不確実性があるのですが、面白い物語は不確実性があるからこそ面白い。どんなドラマだって映画だって漫画だって、「この次どうなるのかな」という不確実性があるから、受け手はそれを楽しんでいるのです。

 この不確実性というものを、ポジティブなものとして人生に取り込むという発想を持てるかどうか。人的資本も社会資本も金融資本も、不確実性の中に自分を投げ出していくということをやらないと、結局増えていきません。

けんすう 山口さんが葉山に引っ越されたのは、まさに物語を転がす行動だと思います。その先でどうするかは、実はあまり定める必要がなくて、ただ転がっていくと、そこから何か新たな出会いや新たな仕事があったりする

 みんな、転がすならその先にゴールがないといけないと思いがちで、ゴールなんて決められないから動かないというパターンが多いのでしょうが、どちらかといえば「まずは転がす」ことを意識したほうがいいと思いますね。

山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(日経ビジネス人文庫)など。

けんすう(古川健介 ふるかわ・けんすけ)

連続起業家

1981年生まれ。浪人中に大学受験サービス「ミルクカフェ」を立ち上げる。早稲田大学政治経済学部在学中に、レンタル掲示板の「したらばJBBS」を運営。リクルートに新卒入社後、起業してハウツーサイト「nanapi」を立ち上げるなど(2014年にKDDIに売却)、学生時代から多くのネット企業や事業を立ち上げてきた連続起業家。現在はアル代表取締役として、マンガ情報共有サービス「アル」や、コラボ型きせかえNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)「sloth(すろーす)」、成長するNFT「marimo」などを手掛けている。著書に『物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術』(幻冬舎)。