プレゼン資料は、「読ませるもの」ではありません。“込み入った話”を言葉だけで伝えようとすると、どうしてもまどろっこしい表現になり、非常にわかりにくい説明になりがちです。そんな時に必要なのは、伝えるべき内容の「本質」を、直観的に理解できるように「図解化」する技術。プレゼン資料は「見せるもの」なのです。そこで、累計40万部を突破した『社内プレゼンの資料作成術』シリーズの著者で、ソフトバンク在籍時には孫正義社長に直接プレゼンをして「一発OK」を次々と勝ち取った実績を持つ前田鎌利さんと堀口友恵さんに、プレゼン資料を「図解化」する技術を伝授していただきます(本連載は『プレゼン資料の図解化大全』から抜粋・編集してお届けします)。

【プレゼン資料】「10秒で伝わるグラフ」をつくるシンプル4原則写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「1スライド=1グラフ」の法則

 プレゼン資料において、「優れたグラフ」とは「考えさせないスライド」です。

 つまり、グラフを読み解くために、相手の脳になるべく負担をかけないようにすることが大切なのです。それよりも、グラフで伝えたい「数字・データ」をスッと理解してもらって、それをもとに意思決定に向けた「思考」を巡らすことに集中してもらうべきです。

 そのためには、見た瞬間に「どの数字を見せたいのか?」がわかり、最長でも10秒以内に「何を言いたいスライドなのか?」を把握できるようにする必要があるのです。

 では、どうすればいいのでしょうか?
 基本的には、「とにかくシンプルにする」ということに尽きるのですが、それだけでは、具体的に何をすればいいかわからないですよね。そこで、ここでは、私たちが絶対に押さえておくべきだと考えている、4つのポイントについて説明してまいります。

【鉄則①】1スライド=1グラフ

 1枚のスライドにグラフがいくつも並んでいると、非常に理解しづらくなります。しかも、1つひとつのグラフも小さく表示するほかなく、“見る気”が失せてしまっても仕方がないでしょう。

 ですから、1枚のスライドに1つのグラフだけ表示する「1スライド=1グラフ」を徹底するようにしてください。

 たとえば、【図-1】の①のスライドをご覧ください。

【プレゼン資料】「10秒で伝わるグラフ」をつくるシンプル4原則

 このように、「売上実績」については棒グラフで、それに重ねるように「目標達成率」を折れ線グラフで表示すると1枚のスライドに収めることができますが、これはNGです。

 なぜなら、「売上実績」については左の単位(目盛)で確認して、「目標達成率」については右の単位(目盛)で確認するのは、誰だって面倒くさいはずだからです。

 このような場合には、【図-1】の②のように、2枚のスライドに分けて、「1スライド=1グラフ」にすることによって、ひとつずつ「数字・データ」を理解してもらうようにしたほうが、相手の脳にかける負担を減らすことができるでしょう(定例報告などで決裁者が「重ねグラフ」に慣れている場合は、こうするには及びません)。

【鉄則②】シンプル・グラフ(余計な数字・罫線・目盛り・凡例はカット)

 伝えたいことが端的に伝わるように、グラフは徹底的に編集します。
【図-2】のように余計な「罫線」「目盛り」などが入っている場合は、すべてカットしてできるだけシンプルなグラフにしてください(余計な「数字」「凡例」もカットします)。

【プレゼン資料】「10秒で伝わるグラフ」をつくるシンプル4原則

「グラフの増減」を強調する方法

【鉄則③】「グラフは左」で増減を強調する

 1枚のスライドにグラフとキーメッセージを入れる場合に、グラフとメッセージを上下に並べるのではなく、なるべく「グラフ=左、キーメッセージ=右」になるようにしてください。

 それが最も人間の脳が認知しやすい形状だからですが、それ以外にも重要な効果があります。

 それは、【図-3】の①ように、「グラフ=左、キーメッセージ=右」にすることによって、グラフの増減を強調することができることにあります。②のように「グラフ=下、キーメッセージ=上」すると、グラフの増減がなだらかになってしまうため、スライドを見たときの訴求力が弱くなってしまうのです。

【プレゼン資料】「10秒で伝わるグラフ」をつくるシンプル4原則

 印象操作と言われるかもしれませんが、それには当たりません。なぜなら、グラフの示す数値にはウソ偽りがないからです。伝えたいことをよりよく伝わるようにするためには、むしろ、こうした編集力こそが重要だと考えるべきなのです。

【鉄則④】キーメッセージを強くする

【図-3】の①の形式のスライドを、さらにブラッシュアップしたのが、【図-4】です。

【プレゼン資料】「10秒で伝わるグラフ」をつくるシンプル4原則

 まず、最も見せたいのは右端の「棒」なので、それ以外は「グレーアウト」します。そして、このスライドは「経費・雑費の増加」を伝える「ネガティブ・スライド」なので、使用する色は「赤」です。

 また、キーメッセージを「12月 150%増」と「要対策」に分割して「▼」で両者をつなぎます。文字数が減ることでよりインパクトが強くなるうえに、「グラフ」→「キーメッセージ①」→「キーメッセージ②」と視線を誘導するため一瞬で理解できる「型」なのです。

 なお、一点ご注意いただきたいことがあります。
 それは、このようにキーメッセージをつなぐマークに矢印(↓)を使わないということです。というのは「↓」を使うと、なんとなく「増減」を示しているように見えて、誤解を招くことがあるからです。

 だから、こういうときには必ず三角形のマーク(▼)を使用するようにしてください。このマークを使えば、「増減」を示していると誤解されることがないばかりか、「つまり」「なぜなら」「だから」など論理の因果関係を示していることが明確になるからです。また、このマークはグレーを使用してください。青や赤を使うと、ポジティブな印象やネガティブな印象を与えて、ミスリードしてしまうおそれがあるからです。

(本稿は、『プレゼン資料の図解化大全』より一部を抜粋・編集したものです)

前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年生まれ。ソフトバンクモバイルなどで17年にわたり移動体通信事業に従事。ソフトバンクアカデミア第一期生に選考され、プレゼンテーションにおいて第一位を獲得する。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当。2013年12月にソフトバンクを退社、株式会社固を設立して、プレゼンテーションクリエイターとして独立。2000社を超える企業で、プレゼンテーション研修やコンサルティングを実施。ビジネス・プレゼンの第一人者として活躍中。著書に『【完全版】社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』(すべてダイヤモンド社)など。

堀口友恵(ほりぐち・ともえ)
埼玉県秩父市生まれ。立命館大学産業社会学部卒業後、ソフトバンクへ入社。技術企画、営業推進、新規事業展開などを担当する中で、プレゼンの経験と実績を積む。2017年に株式会社固へ転職し、スライドデザイナーとしての活動を始める。企業向け研修・ワークショップの担当や大学非常勤講師のほか、大手企業などのプレゼンのスライドデザインを担当し、のべ400件以上の資料作成やブラッシュアップを手がける。前田鎌利著の『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』のコンテンツやスライドの制作にも深く関わった。ITエンジニア本大賞2020プレゼン大会にて、ビジネス書部門大賞・審査員特別賞を受賞。小学生向けのオンライン講座「こどもプレゼン教室」を運営し、子どもたちのプレゼンスキルアップの支援も行っている。