「指揮者なきオーケストラ」が混乱の根本原因
値上がりが止まらないことに加え、その理由がよく分からないことも、消費者の不信感を強めている。
今回の米騒動の根本的な問題は、米の不作という自然災害に加えて、流通全体を統括する管理者が不在だったことにある。これは、オーケストラにおいて指揮者がいない状況に例えることができる。各パートは個別に演奏しているが、全体としての調和が取れていないのだ。
この点については、江藤拓前農林水産大臣も発言している。辞任時の記者会見で、「マーケットと戦うということは、これほど困難なことなのかということを痛切に感じている。(中略)出してしまえば、流通は全て民間任せになってしまう」と述べた。この言葉は、政府の政策と民間流通の間に存在する深刻な連携不足を表している。
後任の小泉進次郎農水大臣も、6月5日の記者会見で「米の流通というのは極めて複雑怪奇。ブラックボックスがあるといった指摘が多々寄せられています。(中略)コメの流通とはどういった状況かを可視化させたい」と発言している。
これらの発言は、日本の米流通システムが抱える構造的な問題を端的に示している。
サプライチェーン管理の不在が招いた混乱
この混乱は、サプライチェーン・マネジメント(SCM)が実施されていないことに起因する悲劇ではないだろうか。
SCMとは、原材料の調達から最終消費者への商品配送まで、複数企業間の全体最適化を図る経営手法だ。人材、物流、商品データの流れを共有・連携することで、効率的な供給体制を構築する。
しかし、日本の米流通においては、“お役所仕事”の典型として、誰も全体の流れを管理監督していない状況が続いていた。これでは、どこで米が滞留し、どこにボトルネックが存在するかを把握することは不可能だ。
従来は、新米収穫後に年間を通じて長期スパンで貯蔵から精米、消費者への配送を行えばよかったため、この問題は表面化しなかった。しかし、米は自然を相手にした農産物なので、不作の年もある。供給が足りない、となったときに対応を誤った結果、供給体制の脆弱性が一気に露呈してしまったのだ。